全 情 報

ID番号 07316
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 積水ハウス(本案)事件
争点
事案概要  建物建築請負、不動産売買、不動産仲介等を業とする会社に雇用され、営業に従事していた労働者が、右会社と営業目的を一部競合する会社を実質的に経営したこと、金銭上の不正を行っていたこと、三度にわたる呼び出しに応じなかったこと等を理由に解雇されたことにつき、解雇は無効であるとして争ったケースで、右理由による解雇は合理的なもので解雇有効とされ棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 二重就職・兼業・アルバイト
解雇(民事) / 解雇手続 / 弁明の機会
解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為
裁判年月日 1999年3月29日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 12019 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例764号24頁/労経速報1705号11頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-二重就職・兼業〕
 本件は、被告の従業員であった原告が、平成六年八月四日、被告から解雇の意思表示を受けたが、その効力を争い、被告に対し、従業員たる地位の確認と解雇後の賃金の支払を求める事案である。〔中略〕
 被告は、本店を肩書地に置き、建物建築請負、不動産売買、不動産仲介等を主たる目的とする株式会社であり、その従業員数は約一万四四〇〇名にのぼる。〔中略〕
 2 株式会社Aの設立等
 (一) 不動産の売買、仲介、賃貸及び管理業等を目的とする株式会社A(以下「A」という。)及びB株式会社(以下「B」という。)が、本店をともに大阪市西区にして、平成元年四月一〇日に設立された。〔中略〕
 1 被告は、原告が被告と営業目的を同じくするAを設立してこれを実質的に営業していた旨主張するところ、〔中略〕原告は、昭和六〇年前後、他社で不動産業に従事していたCと、不動産取引の過程で知り合い、しばらく不動産に関する情報交換を行う関係を続けた後、Cに対し、独立をもちかけたこと、そして、平成元年四月一〇日、原告が探し出した大阪市西区所在のビルの一室を本店所在地として、いずれも不動産業等を目的とするA及びBを設立したこと、原告は、Aの資本金三〇〇万円のうち二〇〇万円、Bの資本金二〇〇万円のうち一〇〇万円をそれぞれ出資し、A及びBの資本金各一〇〇万円合計二〇〇万円は、Cが出資したこと、A設立当初、同社には従業員は一人もおらず、原告の指示を受けて、Cが両社の営業を実行し、Bの経理担当の女性従業員が、両社の日常業務を取り仕切っていたこと、原告は、Aには不定期に出社するにすぎなかったが、Cが不動産取引を成立させても、報酬等の収入はすべてAに入金するように指示していたこと等の記載があり、これは右被告の主張に沿うものである。〔中略〕
 以上を総合すれば、原告はCに指示するなどしてAを実質的に経営していたものと認めるべきである。〔中略〕
 Aは原告が実質的に経営する会社であるから、右金員は、実質的には原告が取得したものであると推認され、原告が被告の従業員として右取引に関与していたことからすると、原告は職務上知り得た情報を利用して右私的な利益を取得したものと推認される。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-不正行為〕
 1 (証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、D株式会社が同社所有にかかる大阪府枚方市内の土地上に冷凍倉庫の建築をE株式会社(ママ)に総額約一〇億円で請負わせる際、被告がその監理をしたこと、被告内における右案件の担当者は原告であったこと、原告がE工務店から九〇一万一八八二円を受けとったことが認められる。
 2 (証拠略)には、原告は、E工務店からリベートを受けとるに先立ち、A名義では領収書を発行できないので、Cに対し、B名義で領収書を発行するよう求め、Cを連れてE工務店の事務所へ行き、CがB名義で領収書を発行するのと引き替えに、原告がE工務店から右約九〇〇万円のリベートを現金で受け取り、そのまま立ち去ったとの記載があり、Cは本件仮処分事件においてこれに沿う供述をする(〈証拠略〉)。
 Cの供述は具体的であって客観的証拠とも矛盾しないので信用するに足りるものであるが、右記載ないし供述も、右約九〇〇万円の領収書をB名義で発行したとの点は原告もこれを自認するところであるし(〈証拠略〉)、右領収書発行に至る経緯も具体的でかつ自然であるので、信用するに足りる。
 3 この点、証人F(以下「F」という。)及び原告は、右土地に関する請負契約は、もともとD株式会社代表者からGを通じてFが情報をつかみ、これを原告に流したことがきっかけとなって成立したこと、平成四年一〇月ころ、大阪市内のホテルのロビーで、原告から紙袋に入った約九〇〇万円の現金を、右情報提供料の趣旨で受け取り、これを同席していたGと分け合ったことを供述し(本件仮処分事件の口頭弁論における供述を含む。)、(証拠略)にはこれに沿う記載がある。
 しかしながら、約九〇〇万円の現金を領収書を発行せずに授受することはやや不自然であるし、Fは、右約九〇〇万円の算定根拠について、代金(約六億円)の一・五ないし二パーセント(〈証拠略〉)、賃料(月額七五〇万円ないし七六〇万円程度)の一か月分(証人Fの証言)との異なる供述をしており、賃料の一か月分であれば現実に授受した額に合わないのであるから、供述内容が矛盾しているし、原告の右供述も、Bが領収書を発行している事実を合理的に説明できないから、いずれも採用することができない。
 4 以上の事実を総合すると、原告は、大阪府枚方市内の建物建築請負工事に関連して、約九〇〇万円のリベートを取得したと認められる。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-不正行為〕
〔解雇-解雇事由-二重就職・兼業〕
 原告は、本件解雇が、言うべきことは言うという行動をとってきた原告を社外に排除しようとの動機からなされたものであり、また、告知、聴聞も全く経ずに行われたものであって、解雇権を濫用するものであるとの主張もしているけれども、本件解雇が右のような動機に基づいて行われたものであることを認めるに足りる証拠はなく、〔解雇-解雇手続-弁明の機会〕
また、被告は、平成六年五月二四日、同年六月三日、同月一三日に原告から事情聴取し、同年七月二二日、同月二六日及び同年八月四日にも原告から事情を聴取しようとした(これに対し原告が正当な理由なく出頭しなかったことは前記のとおりである。)のであるから、本件解雇が告知、聴聞を全く経ずに行われたものであるということはできず、本件解雇の意思表示について解雇権の濫用を基礎づける事実はこれを認めることはできない。