全 情 報

ID番号 07320
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日証(第一、第二解雇)事件
争点
事案概要  金融業を営む会社が和議を申請し、再建を図ることを理由として全従業員に対して解雇する旨の通知を行い、その後一部従業員だけを再雇用し、会社で内勤社員として雇用されてきた原告らにつき再雇用しなかったことに対して、これらの者が本件解雇(第一次解雇)を無効として地位保全の仮処分を申請したところ、裁判所においてこれを認める決定が出されたが、会社がこの決定を受けてさらに解雇(第二次解雇)を行ったことにつき、その効力を争ったケースで、解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 1999年3月31日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 9672 
裁判結果 一部認容、一部却下、一部棄却(控訴)
出典 労働判例765号57頁/労経速報1708号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 整理解雇は、従業員に何らの帰責事由がないにもかかわらず、使用者側の事情によって、一方的に従業員たる地位を失わせるものであるから、使用者が整理解雇をするに当たっては、労使間の信義誠実の原則に従って解雇権を行使すべきことが強く要請され、使用者の解雇権の行使が労使間の信義に反した結果、社会通念上相当なものとして是認できないときは、当該解雇の意思表示は、権利濫用として無効になるというべきである。
 そして、当該解雇の意思表示が権利濫用となるか否かは、主として以下の観点を総合的に考察して判断すべきである。
 すなわち、第一に、人員削減の必要性が存すること、第二に、希望退職者の募集等使用者が解雇回避のための努力を行ったこと、第三に、被解雇者の選定が客観的で合理的な基準に基づいてなされたこと、第四に、解雇手続が妥当であること(使用者が、労働組合や従業員に対して、具体的状況に応じ、解雇の必要性やその時期、規模、方法を説明し、納得の得られるよう協議したことなど)が必要と解される。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 被告は、本件第一解雇について被解雇者を選出するという通常の指名解雇の方法によらず、和議申立と同日に全従業員をその翌日付で解雇したうえで一部の者を再雇用という方法により選出したのであるが、右のような手法は、結局、選出されなかった従業員を被解雇者として選定したのと同様であり、再雇用者の選出基準は、同時に被解雇者選出基準でもあるから、その選定基準に差をもたらすものではなく、客観的で合理性のあるものでなければならない。
 本件選別基準の内容をみても、業務に秀でた者、能力のある者等抽象的で評価的な要素が多く、客観的な選定基準とはいい難く、本件選別基準に、選別者の恣意的な人選を防止するというような機能は期待できない。
 現に、再雇用者の人選を見ても、被告の主張によれば、各部署担当役員がまず、当該部署の幹部クラスを選出し、選出された幹部従業員が部下を選出したというのであるが、従前の支社長や部長クラスの幹部職員は殆ど全て再雇用されており、これでは、果たして経営破綻についての原因究明やそれを踏まえた再建に向けての真摯な人選がなされたかについて疑問がもたれるのも当然というべきである。
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 被告の本件解雇については、解雇回避努力、解雇手続における説明義務の履践等に信義に従った手続きがされていないし、既に和議申立段階で再雇用者、したがってまた、被解雇者の人選を終えているが、その人選については多分に恣意的になされた疑いがあり、かつ、現実の人選も疑問なしとしないもので、客観的で合理的な基準に基づいて被解雇者の人選を行ったとは到底認められず、第一解雇は権利の濫用に該当し、無効というべきである。
 三 第二解雇の有効性
 被告は、第一解雇の人選を前提として、予備的に、その後説明義務を尽くしたことを理由に第二解雇が有効である旨主張するが、右のとおり、当裁判所は、第一解雇は、手続の妥当性を欠くほか、人選の合理性が認められないとの理由で、権利濫用に該当すると判断するものであるから、第一解雇の人選を前提とする第二解雇もまた、権利の濫用に該当するものとして無効というべきである。
 なお、被告のように、説明義務違反を理由に仮処分で解雇無効との判断を受けながら、解雇後、訴訟外で及び訴訟の審理の中で説明義務を果たしたことを理由に再解雇することは、従業員の地位を不安定にする極めて信義に反した行為というべきであって、その点から見ても、第二解雇は権利の濫用に該当するというべきである。