全 情 報

ID番号 07321
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 長門市社会福祉協議会事件
争点
事案概要  社会福祉協議会が、長門市から委託を受けて運営してきたホームヘルパー派遣事業につき、長門市がその事業の民間への移管を決めたため、委託金の不支給により事業の継続が不可能となり、ホームヘルパーとして勤務してきた者を解雇したことにつき、解雇されたホームヘルパーが雇用継続保障契約が締結されていた、解雇は権利濫用に当たり無効であるとして地位保全の仮処分を申し立てて争ったケースで、雇用継続保障契約は締結されておらず、右の事情の下では解雇は有効であるとして申立てが却下された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法628条
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1999年4月7日
裁判所名 山口地
裁判形式 決定
事件番号 平成10年 (ヨ) 21 
裁判結果 却下
出典 労経速報1718号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
 債権者らを債務者に残留させるか否かは、本件委託契約を含む組織、制度上、債務者の一存のみで決し得ることではなく、長門市の承認を要する事項であることに照らせば、債務者の幹部らがなしたとはいえ、前記各言動をもって、債権者らと債務者との間で、債権者らの主張する雇用継続保障契約が成立したとは認め難いところである。
 したがって、右雇用継続保障契約が成立したことを前提に、本件解雇が、信義則に反し、解雇権の濫用に当たるとして、無効であるとする債権者らの主張は肯定し得ないところである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 本件解雇は、就業規則三一条三号の「やむを得ない事業上の都合」に該当するとしてなされたものであるが、それは、長門市が債務者に委託して行ってきたホームヘルパー派遣事業を民間に委託替えしたことに伴う余剰人員の整理のためになされたものであり、整理解雇に該当すると解される。
 ところで、かかる整理解雇は、労働者の責に帰すべき事由によるものではなく、もっぱら使用者側に存する事由に基づいて労働者を一方的に解雇するものであるから、整理解雇が有効であるためには、憲法が、労働者の生存権、労働基本権を保障している趣旨と、経営者の経営の自由(営業の自由)を保障している趣旨に鑑み、〔1〕人員整理の経営上の必要性、すなわち、それが企業の合理的運営上やむを得ない必要に基づくものであること、〔2〕整理解雇を回避する手段の有無、すなわち、当該人員整理の具体的状況のなかで全体として解雇回避のための真摯かつ合理的な努力をなしたと認められるか否か、〔3〕解雇手続の相当性、合理性の存否、すなわち、使用者は、労働組合又は労働者に対して、整理解雇の必要性とその時期・規模・方法につき納得を得るために説明を行い、さらに、それらの者と誠意をもって協議したか否か、を総合的に考慮して決するのが相当である(右のほかに、「被解雇者選定の妥当性」も判断要素として挙げられることがあるが、前記一で認定した経過からして、本件解雇においては、かかる要素を考慮することを要しない)。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 平成一二年四月一日から介護保険法が施行され、同法に基づく介護保険制度(四〇歳以上の国民が、所得に応じて介護保険料(当初三年間、一人平均月額二五〇〇円)を支払い、六五歳以上になれば、利用料を支払ってホームヘルパーの派遣や特別養護老人ホーム入所などの介護サービスを受けられるというシステム)が実施されることで、債務者がホームヘルパー派遣事業を独自に再開することも可能となると認められる。そして、債務者代表者の審尋の結果によれば、債務者において、介護保険法施行後、ホームヘルパー派遣事業を再開する可能性を有していることが認められるが、実際に、かかる事業を再開するかどうかは、その時点における長門市や債務者の財政状況その他諸般の事情を踏まえた経営判断によることを要するのであるから、右ホームヘルパー派遣事業再開の可能性をもって、右認定を覆すに足りないというべきである。