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ID番号 07328
事件名 減俸発令無効確認、損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 JR東日本(仙台鉄道管理局)事件
争点
事案概要  国鉄の動力車乗務員であった者(組合員)が、営業職兼務の発令を受けて駅直売店への異動を命じられ、JR発足後すぐに動力車乗務員の兼務を解かれた(解職発令)ことにつき、右解職発令は、労働契約に違反する、組合の活動に対する不利益取扱いに当たる等として、解職発令の無効確認と、本来支給されるべきであった賃金との差額相当の損害賠償を請求したケースにつき、解職発令の無効確認請求は不適法として却下した原判決が維持されながら、損害賠償につき原判決が変更され、請求の一部が認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 人事権
解雇(民事) / 変更解約告知・労働条件の変更
裁判年月日 1999年4月27日
裁判所名 仙台高
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ネ) 68 
裁判結果 一部認容、一部棄却(上告)
出典 労働判例773号73頁
審級関係 一審/07167/奈良地/平10. 8.26/平成8年(ワ)602号
評釈論文
判決理由 〔解雇-変更解約告知・労働条件の変更〕
 当裁判所も、控訴人Xらの本件兼務解職発令無効確認請求に係る訴えは、不適法であるから却下すべきものと判断する。その理由は、原判決四二頁三行目から四三頁三行目まで説示のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕
〔労働契約-人事権〕
 使用者が職種ごとに基本給を異にするとの前提で従業員を採用すること自体は当然許容されるべく、しかも、ある職種で採用した従業員を同じ職種に長く固定させるかどうかも、基本的には、使用者の営業方針に関する事柄であって、少なくとも使用者側に極めて幅広い裁量が認められるべきであるから、被控訴人がその発足当初、控訴人Xらを動力車乗務員との兼務という形にせよ、実質的には営業係等に配属させる前提で採用し、その後、右兼務を解いた上、長期間にわたり動力車乗務員に異動させなかったとしても、純粋に人事権自体に伴う裁量の問題として考える限り(後記のとおり、不当労働行為の成否の観点からは別異の評価をせざるを得ないが)、右のような被控訴人の控訴人Xらに対する人事権行使の態様をもって、直ちに違法性を帯びるものということはできない。」
 控訴人Xらの平成五年五月以降の賃金支払分に限定して、賠償請求の対象となる損害額について検討する(なお、右平成五年五月の時点では、既に控訴人Xらが本件減俸発令により二号俸減ないし三号俸減となってから三年余りを経過していたものであり、この時期以降の二号俸減ないし三号俸減のままの人事配置が不当労働行為たる不利益取扱いに当たることは、前示のところからして明らかというべきである。)。
 不利益取扱いを内容とする不当労働行為の場合に、賠償の対象となる損害は、当然ながら,過去の不利益取扱いの結果を解消するに足りるものでなければならず、したがって、本件では、被控訴人が優遇した東労組所属の組合員と同等の扱いがされた場合との差額が損害額とみるべきである(被控訴人において、過去にさかのぼって東労組所属の組合員たる動力車乗務員に対し、優遇措置の撤回を図る可能性があれば別であるが、法律的にも、実際問題としても、被控訴人がそのような措置に出る余地があるとは認め難い。)。そして、前示のとおり、控訴人Xらが動力車乗務員としての適性を欠くなどの特段の事情は認められないのであるから、同控訴人らは、仮に東労組所属の動力車乗務員と同等の扱いがされていたとしたならば、右平成五年五月以降、動力車乗務員として、実際に支給されたところより二号俸ずつ多い基本給の支払を受けられた高度の蓋然性があるというべく、これと実際に受けた基本給との差額が損害賠償の対象になるというべきである。もっとも、前示のとおり、いわゆる三号俸上乗せの対象となっていた動力車乗務員がいったん他の職に転じた後、動力車乗務員に復帰した場合に、再度三号俸上乗せが当然確保されると解することには疑問が残るのであるから、従前三号俸上乗せの対象となっていた控訴人らについても、右損害賠償の対象となるのは、二号俸の上乗せ分にとどまるというべきである。〔中略〕
 以上によれば、控訴人らの本件兼務解職発令無効確認請求に係る訴えは却下すべきであり、控訴人組合の損害賠償請求は全部棄却すべきであるから、原判決中、これらに関する部分は相当であるが、控訴人Xらの各損害賠償請求は、それぞれ前示の限度で一部認容すべきであるから、原判決中、これに関する部分は一部不当である。