全 情 報

ID番号 07337
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 キング商事事件
争点
事案概要  被告会社の取締役兼営業部長であった者が、経営者である兄弟間の対立から、新会社設立が決定された後、その新会社の詳細が未定での段階で、被告会社及び他の兄弟に隠密に新会社設立準備のために行動し、被告会社の営業会議に欠席し、右のようにして設立された新会社の取締役に就任するなどの行動をとったことを理由に懲戒解雇されことにつき、その効力を争ったケースで、右理由による懲戒解雇が有効とされ、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号の2
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1999年5月26日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 11268 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例761号17頁/労経速報1712号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 原告は、Aから出席を指示された平成八年一月五日の経営(ママ)会議に、Bの指示に従うとの理由で敢えて欠席し、部下であるCに対してまで欠席を指示し、あまつさえ、右経営(ママ)会議欠席の理由を問い質すAに対し、不服従の意思を表明したこと、第一営業部の朝礼において、新会社設立は分社ではないと説明しようとしたAの訓示を、トップ会議の決議等と異なるなどと言って妨害したこと、社長であるAとの接触を拒否し部下からの決裁をしなくなったこと、Aはこのような原告の職務態度に対し、自宅待機と報告書の提出を命じたが、原告はこれを無視して出勤したことなどが認められ、これらの行為は明らかに上司の命令に違背し、職場の指揮命令系統を乱すものであり、就業規則六一条七号の業務命令違背の懲戒解雇事由に該当するものというべきである。
 (二) 原告は、被告には秘密裏にD会社に出資して取締役に就任しているが、これは、就業規則二〇条一号の服務規律違背であり、懲戒解雇事由にも該当するものであるというべきであり(同六一条一号)、また、原告は、第一営業部従業員全員を新会社へ移籍させるべく、退職届を提出させてこれをとりまとめ、部下に命じて、新会社のために被告の顧客情報等を複写して持出させたり、新規顧客を新会社の顧客として取り扱うよう指示したりしているのである(原告は、これが、顧客情報の盗出しではないなどというが、社長であるAが強く分社に反対している状況下において、被告が右顧客情報の提供に任意に応じるとは到底考えられないところであり、そうであるからこそ、原告らも被告には秘密裏に顧客情報の複写等を行っているのであって、まさに顧客情報の盗み出し以外の何者(ママ)でもない。)が、これらもまた、就業規則二〇条一、三、五号の服務規律違背であり、懲戒解雇事由にも該当するものであること(同六一条一号)は明らかというべきである。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 原告は、本件懲戒解雇について、原告に弁明の機会が与えられなかったことをもって手続的な相当性を欠くと主張するところ、確かに、懲戒処分を受ける従業員の防御権保障という見地からすると、当該懲戒処分を有効とするためには、特段の事情がない限り、懲戒事由の事前告知とこれに対する弁明の機会が付与されることが必要と解される。
 しかしながら、本件では、原告は、分社が被告の決定事項ではないという社長であるAの説得を全く聞き入れようとせず、明示に同人の指示に従う意思のないことを表明して、Aと対立するBらとともに、主体的かつ積極的に新会社設立手続を推認(ママ)しようとしていたのであり、分社が実現したときには被告を退社する意図であることは容易に推察されたし(原告自身、その本人尋問において、これを認めている)、分社を阻止しようとして出された自宅待機や報告書提出の命令にも従うことがなかったのであるから、これをそのまま放置することは被告の存続にも関わりかねない重大かつ緊急な事態というべきであった。そして、原告自身は、Aの意向に反することを承知の上で右業務命令等を無視して分社を推進しているのであるから、これらを理由に懲戒処分を受けることは十分予想できたことであるうえ、右の自宅待機や報告書提出の業務命令によって弁明をする機会は十分に存在した。かかる場合において、被告には、さらに重ねて、原告を召還(ママ)するなどして外形上も明白な弁明の機会を付与しなければならないとするまでの理由は見出しがたいし、仮に、そのような措置を講じたとしても原告の翻意を期待することは困難であるから、右特段の事情があるというべきである。
 (五) 以上によれば、本件懲戒解雇は、就業規則所定の懲戒解雇事由を具備し、処分としての内容及び手続の両面において相当性を欠くとは認めがたいから有効というべきである。