全 情 報

ID番号 07339
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 嵐山タクシー事件
争点
事案概要  組合執行委員長をリコールされた者が、新組合を結成したとしているときに、ユニオン・ショップ協定に基づき解雇され、右解雇は無効であるとして地位保全・賃金仮払いの仮処分を申し立てたケースで、右申立てが一部認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働組合法16条
体系項目 解雇(民事) / ユニオンショップ協定と解雇
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1999年5月27日
裁判所名 京都地
裁判形式 決定
事件番号 平成11年 (ヨ) 158 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働判例768号54頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-ユニオンショップ協定と解雇〕
 本件ユニオン・ショップ条項も、かかる労働組合の組合員に対する統制権を根拠として、会社に労働組合が労働組合から除名されもしくは脱退した者を解雇するよう義務付けることによって、自らの組織をより強固ならしめ、ひいては労働者の団結権の保障を強固ならしめようとするものであり、例えば、労働組合の存立を危うくするなど重大な非違行為を犯すことによって除名されるに至った者や、専ら組合員としての義務を免れるため脱退し、ただ、労働組合の努力の成果だけを反射的に享受せんとする不当利得者(いわゆるフリーライダー)、あるいは、個人的に会社と取引をして一人利益を享受し労働者の団結を損なうような者に対して、労働組合の統制権の、会社を通じての発動として解雇を要求するような場合は、合理的範囲に属するものとして、その効力を否定することはできないものと考えられる。
 6 ところで、本件解雇は、法形式上は本件ユニオン・ショップ条項に基づいてなされたものであるが、Aの組合脱退は、前記のとおり組合運営の方針を巡る争いによって組合内部に混乱が生じ、組合を脱退して、新しい理念のもとに新組合を結成した段階で発動されたものであって、Aらの立場を法的に評すれば労働者の団結権の行使の一態様と目されるものであって、その限りにおいて正当な行為であることに異論はなく、ユニオン・ショップ条項が団結権擁護のためにこそその合法性が承認されているとの前記理解を前提とすれば、Aの組合脱退は、労働者として新しい団結を志向してなされたものと認められるのであるから、これにユニオン・ショップ条項を適用することはまことに背理といわなければならない。〔中略〕
〔解雇-ユニオンショップ協定と解雇〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 Aの組合脱退は新しい労働組合結成のためになされたものと認められ、前記のようにユニオン・ショップ条項の適用は合理的範囲に限定されるべきであり、かつ、本件解雇はユニオン・ショップ条項を適用して解雇できるケースにも該当しないのであるから、会社が、本件ユニオン・ショップ条項を根拠にAを解雇することは、解雇権の濫用として無効といわなければならない(平成元年一二月一四日最高裁判決民集四三巻一二号二〇五一頁以下参照)。〔中略〕
 組合混乱の原因ないし経緯、会社とB労働組合は争議行為中ではなかったこと、Aの生活状況、Aが賃金収入を失うことによって予想される当面の困窮度など本件審理にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると、一か月二〇万九五〇円の割合による賃金の仮払いをAに受けさせる必要があるというべきであり、右認定の限度を超える賃金の仮払いを求める申立て部分は、必要性について疎明がない。
 3 また、本件は一般的に本案訴訟においては長期化が予想される労働事件であり、本案判決確定まで賃金仮払いを命じるいわゆる満足的仮処分の効力を維持させることは、仮処分の暫定的性格にそぐわないことから、本件にあっては、Aが本件仮処分命令の申立てをした後である平成一一年二月から、本案の第一審判決の言渡しまでの限度で認容するのが相当と認められる。