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ID番号 07366
事件名 未払賃金請求控訴事件
いわゆる事件名 徳島南海タクシー(割増賃金)事件
争点
事案概要  タクシー会社の運転手として勤務している一五名が、労基法三七条に定める時間外・深夜割増賃金につき未払いがあるとしてその支払と同額の付加金を求めたケースで、協定書の定める超勤深夜手当が割増賃金を含むとの明確な合意があったとはいえないとして、その請求を一部認容した原判決が、額につき一部変更されたが、維持された事例。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法115条
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定方法
雑則(民事) / 時効
雑則(民事) / 附加金
裁判年月日 1999年7月19日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ネ) 376 
裁判結果 棄却、一部変更(上告)
出典 労働判例775号15頁
審級関係 上告審/最高三小/平11.12.14/平成11年(オ)1461号
評釈論文
判決理由 〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定方法〕
 控訴人は、右超勤深夜手当は、労働基準法三七条の時間外・深夜割増賃金であると主張するところ、文言上は、そのように解するのが自然であり、労使間で、時間外・深夜割増賃金を、定額として支給することに合意したものであれば、その合意は、定額である点で労働基準法三七条の趣旨にそぐわないことは否定できないものの、直ちに無効と解すべきものではなく、通常の賃金部分と時間外・深夜割増賃金部分が明確に区別でき、通常の賃金部分から計算した時間外・深夜割増賃金との過不足額が計算できるのであれば、その不足分を使用者は支払えば足りると解する余地がある。
 4 しかしながら、被控訴人らは、本件協定等による賃金には、名目上は定額の超勤深夜手当を含むこととされているが、控訴人の賃金体系は、水揚額に対する歩合制であって、実質的に時間外・深夜割増賃金を含むものとはいえないと主張するところ、なるほど、名目的に定額の割増賃金を固定給に含ませる形の賃金体系がとられているにすぎない場合に、そのことのみをもって、前記のような時間外・深夜割増賃金の計算が可能であるとし、その部分について使用者が割増賃金の支払を免れるとすれば、労働基準法三七条の趣旨を没却することとなる。したがって、右のような超勤深夜手当に係る定めは、実質的にも同条の時間外・深夜割増賃金を含める趣旨で合意されたことを要するというべきである。〔中略〕
 本件協定等の賃金体系は、その内容自体、形式的な定めとは異なり実質歩合制であると考える方が自然である上、定められた超勤深夜手当は定額であるが、その算定根拠は明らかではなく、また、被控訴人らに交付された賃金明細書も歩合制であることを疑わせるものがあり、労働基準監督署の勧告等に対する控訴人の対応も控訴人自身が実質歩合制であることを認めていたとも考えられるのであって、これらを総合すると、本件協定等における超勤深夜手当が、水揚額に賃金比率を乗じた総支給額の中の多目的な内訳であるという以上に、労働基準法三七条の定める時間外・深夜割増賃金の実質を有するものとはいいがたく、本件協定等において、時間外・深夜割増賃金を固定給に含める旨の実質的合意があったと認めることはできない。〔中略〕
〔雑則-時効〕
 被控訴人らの請求する平成三年五月から同年八月分の未払割増賃金については、各弁済期の翌日から起算して本件訴え提起時において二年が経過していること及び控訴人においてその主張のとおり右時効を援用したことは記録上明らかである。
 よって、右期間分につき被控訴人らに支払われるべき未払割増賃金があったとしても、この部分については被控訴人らの請求は理由がない。
〔雑則-附加金〕
 控訴人が、被控訴人らに前記の各割増賃金を支払わなかった期間やその合計額、平成元年に被控訴人らが控訴人に支払を求めて以降の両者間における交渉の経過など、本件証拠上認められる諸般の事情を総合すると、労働基準法一一四条に基づき、控訴人に対し、被控訴人ら各自に対し、前記の各未払割増賃金と同一額の付加金を支払うように命じるのが相当である。