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ID番号 07374
事件名 債務不存在確認、同反訴請求控訴事件
いわゆる事件名 ユニ・フレックス事件
争点
事案概要  労働者派遣業を営む会社の営業部に属する従業員X1(第一審被告)が、営業手当の算定に残業時間が考慮されず、また営業手当を減額されたことに関連して労働基準監督署に申告したことを契機に会社の営業部長から退職を要求され、合意解約か解雇は別にして退職することで話がまとまった後、残務整理を行い、別の会社に就職したが、離職票に解雇と記載されたことから不当に解雇されたとして、労働組合東京ユニオンに加入し、不当解雇撤回、残業手当の未払い分を要求したが、他方、同社に登録していた派遣労働者X2(第一審被告)は、勤務開始後六か月経過して体調不良で仕事を休んだため、年休で処理してもらいたいと依頼したところ、会社は就業時間を基準として半年間に八〇〇時間以上稼働することが「全労働日の八割以上」に当たるとして要求を拒んだことに基づき、会社がX1との雇用関係の終了、X1及びX2との間の債務不存在の確認を求めた(本訴)のに対して、X1が、雇用契約上の地位確認、賃金・時間外割増賃金の支払を、X2が年休として認められず、欠勤扱いとされた分の損害賠償の支払を求めた(反訴)ケースの控訴審で、原審判決を一部変更し、X1については合意により雇用契約は解約されたとして雇用契約上の地位確認を退けたが、割増賃金については請求を認めるとともに、X2については会社はX2の年休権を不当に侵害したものとして、欠勤扱いとされた分の損害賠償の支払を認容した事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法37条
労働基準法39条1項
体系項目 退職 / 合意解約
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
年休(民事) / 年休の成立要件 / 出勤率
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定方法
裁判年月日 1999年8月17日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ネ) 3067 
裁判結果 一部認容、一部棄却、一部変更(上告)
出典 労働判例772号35頁
審級関係 一審/07141/東京地/平10. 6. 5/平成8年(ワ)5940号
評釈論文
判決理由 〔退職-合意解約〕
 控訴人が積極的に退職を希望したり、明確に退職を承諾したりしたものとはにわかに認め難いが(〈証拠・人証略〉中、この点に関する部分は採用できない。)、次のようなその後の事情、すなわち、当日のやりとりの結果、近々退職することを前提に、Aが控訴人X1に対し同控訴人が担当している現顧客を他の営業担当者に引き継ぐよう指示がされ、同控訴人もこれを承諾したこと、その後控訴人X1はAに指示されたとおり現顧客の引継ぎを行い、その他の残務処理を行い、歓送迎会に出席して退職を前提とする挨拶をし、四月三〇日を最後に出社しなくなり、社宅も六か月間後には明け渡すことにしたこと、控訴人X1は直ちに求職活動を行い、五月中旬には他の会社に就職していること、その後五月三〇日付けで被控訴人に提出された要求書にも、不当解雇の撤回と慰謝料を含む解決金の支払の要求は明示されているものの、原職復帰は明示されていないことなどの事情に照らすと、控訴人X1は、平成七年三月のAとの個別面談の際、Aの退職要求に対し、不承不承ではあるものの近々の退職を承諾して引継ぎの指示を受け入れ、その後退職に向け必要な引継ぎ等を行い、四月三日の個別面談の際に四月三〇日限りの退職を最終的に承諾し、その後も残務整理等を行い、Aによって指示された四月三〇日をもって出社しなくなり、その後直ちに他の会社に就職したものと認めるのが相当である。〔中略〕
 本件雇用契約は、平成七年四月三日に控訴人X1と被控訴人との間で同月三〇日をもって同契約を解約する旨の合意がされたことにより、四月三〇日の経過をもって合意解約されたものというべきである。そして、本件においては、右合意解約の効力を妨げる事情について主張、立証は存在しない。
 したがって、控訴人X1は、平成七年四月三〇日限りで、被控訴人に雇用された労働者としての労働契約上の権利を有する地位を喪失したものであるから、控訴人X1がこの地位にあることの確認を求める同控訴人の請求は理由がない。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定方法〕
 一般的には、変更後の営業手当は、主として営業職の技能に対する手当及び営業実績に対する手当としての性格を有するものであり、時間外労働に対する対価部分が右営業手当に含まれていたということはできない。そして、控訴人X1は、前記認定のとおり、本件計算期間中の平成六年八月一日から平成七年一月三一日までは、営業手当として一か月三万円を支給されていたところ、右の金額は賃金規程に規定された(旧)営業手当の最下限の額である上、現実には、平成六年八月支給分から平成七年二月支給分までにおいては、賃金規程が規定する三万円の下限を下回る一か月二万円の営業手当を支給されていたにとどまるのである。
 これらの事実によれば、本件計算期間内の控訴人X1の営業手当に時間外ないし深夜のスタッフフォロー業務に対する対価部分(残業手当部分)が含まれていたと認めることはできない。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 本件計算期間中の営業手当(一か月三万円)は、時間外労働単価及び深夜労働単価算定の基礎となる賃金に含めるべきであり、また、この営業手当の支給によって、時間外労働手当及び深夜労働手当の一部が支払われたと認めることもできない。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 被控訴人の就業規則(賃金規程)一三条〔2〕は、「営業は、会議及びスタッフフォロー業務のみを時間外労働割増賃金の対象とする。」と定めており、それ以外の時間外労働(ここでいう「時間外労働」には、時間外労働で、かつ、深夜に及ぶ労働(本件における「深夜労働」)を含む趣旨と解される。)には割増賃金を支払わない趣旨にも読めるが、そうであるとすれば、その限りで同規定は労働基準法三七条一項に違反して無効であり、同条項の定める基準が労働契約の内容となるから(労働基準法一三条)、同法三七条一項の定める時間外労働に該当するものであれば、控訴人X1は時間外労働手当及び深夜労働手当を請求することができるものというべきである。〔中略〕
〔年休-年休の成立要件-出勤率〕
 労働基準法三九条一項は、「雇入れの日から起算して六箇月継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対し」一〇労働日の有給休暇を与えなければならない旨規定しているところ、右1(一)の事実によれば、控訴人X2は平成七年三月一五日の経過により被控訴人に「六箇月継続勤務し」たということができる。
 次に、「全労働日の八割以上の出勤」という要件について検討するに、右1に認定の事実によれば、当時被控訴人は、控訴人X2のような派遣労働者について、被控訴人における就業日を基準にして、半年間で八〇〇時間就業しなければ年休権を取得しないとの扱いをしていたものである。しかし、労働基準法三九条一項の規定が「全労働日の八割以上の出勤」を年休権取得の要件としたのは、労働者の勤怠の状況を勘案して、特に出勤率の低い者を除外する趣旨であると解されるから、控訴人のような派遣労働者の場合には、使用者から派遣先において就業すべきであると指示された全労働日、すなわち派遣先において就業すべき日とされている全労働日をもって右の「全労働日」とするのが相当である。したがって、被控訴人の右取扱いは、労働基準法三九条一項の規定に違反するものであったというべきである。