全 情 報

ID番号 07377
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 中根製作所事件
争点
事案概要  工業ミシン部品を生産している会社の元従業員らが、受注の減少傾向の下で営業利益の赤字が続いたことで、五三歳以上の従業員の月額給与を最高二〇%カットすることを内容とする労働協約が締結され、賃金減額の措置を受けたことに対して、右協約及び賃金減額措置を違法であるとして、本来受けるべきであった額との差額分の賃金を請求したケースで、右協約の規範的効力が否定され、給与減額措置は従業員の個別の同意がなかったとして無効とされ、請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
労働組合法16条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 1999年8月20日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 9314 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例769号29頁
審級関係
評釈論文 吉田肇・平成13年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1096〕296~297頁2002年9月/諏訪康雄・労働判例771号7~15頁2000年2月1日/西谷敏・法律時報72巻13号279~282頁2000年12月/名古道功・労働法律旬報1485号33~39頁2000年8月10日
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 本件給与減額措置に関し、被告は、全従業員に対する説明会及び無記名アンケートを実施しているが、労働組合は賃下げであることを理由に労働協約の締結を拒否し、個別的な契約として欲しいと申入れただけでなく、職場会において反対意見が多数を占めたことから、平成八年一二月三日、被告に対し、再考を求めたが、被告は、再考を拒否し、本件給与の減額を実施したのである。このことからすると、本件給与減額措置に関しては、労働組合の同意があったものといえないことは明らかであり(なお、無記名アンケートは、給与の見直し、雇用調整について意見を問うもの(〈証拠略〉)で、右アンケートの結果、一一八名の従業員が給与の見直しに賛成ないし概ね賛成した(前記一4(一))からといって、その時点では、被告から給与減額の具体的な規模及び金額について明示されていなかったことからして、被告が示した給与の見直し案に従業員が賛成したということはできないのは当然である。)、そうだとすれば、給与は労働条件の中でも最も重要な事項であることに照らし、被告としては、給与が減額される各従業員から個別的に同意を得なければ、給与の減額は行えないというべきである。〔中略〕
 本件給与減額措置は、全従業員が対象であったとはいえ、全従業員の給与を一律に減額するというものではなく、結果的に給与が減額されたのは従業員の過半数である一四二名であり、その減額幅も能力や過去の考課査定を勘案することになっていたことから一律ではなく、しかも最高で八万円も減額された従業員もいたこと(前記一4(一))などからすれば、事前に当該従業員に対し、個別的にそれぞれの給与減額の理由を説明した上、同意を得なければならないというべきであるところ、被告はそのようなことをしていないし、定年退職をした亡A、原告X1、同X2を除いて、原告らは平成八年一二月中に被告を退職したこと(争いのない事実)、その理由には平成八年四月及び一二月の二回の給与の減額によって生計の維持が困難になったこと(原告X3本人)があったこと、そして、原告ら及び亡Aは本件訴訟を提起したことなどの事実に照らせば、原告ら及び亡Aが異議を述べなかったことをもって、原告ら及び亡Aが本件給与減額措置に同意したものということはできない。
 3 したがって、本件給与減額措置は無効であるというほかない。〔中略〕