全 情 報

ID番号 07386
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 神奈川中央交通(大和営業所)事件
争点
事案概要  路線バス運転手が駐車車両にバスを接触させ、下車勤務として約一か月の営業所構内の除草作業を命じられ(第一業務命令)、乗車勤務復帰後も一か月以上の添乗指導を受けさせられた(第二業務命令)ため、精神的損害を受けたとして損害賠償を請求したケースで、第二業務命令については運転技術の矯正を目的としてなされたもので、適法妥当なもので違法とは認められないが、第一業務命令については、運転手に復帰後に安全運転を行わせるという下車勤務の目的から大きく逸脱しており、恣意的な懲罰の色彩が濃いとして裁量権を逸脱した違法があるとして損害賠償が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1999年9月21日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 3771 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例771号32頁
審級関係
評釈論文 伊藤幹郎・労働法律旬報1530号26~29頁2002年6月25日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-業務命令〕
 本件の第一業務命令についてみれば、被告Yは、原告に対し、八月二日から就業時間中除草作業をすることのみを命じ、しかも、原告が除草作業への従事を終えた同月二五日までの間、被告Yその他の被告会社の上司から右作業に期限あるいは作業範囲を指定したことはない。さらに、前判断のとおり、原告は、本件事故においてAに対する関係で全く過失がないのにもかかわらず、被告Yは十分な調査を尽くさないまま原告の有過失を前提にして右業務命令を発しているのである。そうであれば、前判断のとおり除草作業自体が下車勤務の一形態として適法であると認められるものとしても、被告Yの一存で、期限を付さず連続した出勤日に、多数ある下車勤務の勤務形態の中から最も過酷な作業である炎天下における構内除草作業のみを選択し、原告が病気になっても仕方がないとの認識のもと、終日または午前或いは午後一杯従事させることは、被命令者である原告に対する人権侵害の程度が非常に大きく、安全な運転を行うことができないおそれがある運転士を一時的に乗車勤務から外しその運転士に乗車勤務復帰後に安全な運転を行わせるという下車勤務の目的から大きく逸脱しているのであって、むしろ恣意的な懲罰の色彩が強く、乗車勤務復帰後に安全な運転をさせるための手段としては不適当であり、運行管理者である所長の裁量によりなしうる範囲内ではあり得ないというべきである。
3 したがって、第一業務命令は、前判断のとおり原告が本件事故の発生に気づかなかったこと自体には原告の不注意があったと認められるものとしても、就業規則八条二項の趣旨に反するのみならず、被告Yの所長としての裁量の範囲を逸脱した違法な業務命令であるというべきである。〔中略〕
 第二業務命令は、八月二六日に原告が清掃を行った態度が良かったことを受け、その翌出勤日から除草作業、清掃整理を内容とする下車勤務から解いてなされた業務命令であるところ、第一業務命令がなされた発端が本件事故であることからすれば、被告会社としては、原告について、走行時左寄りの傾向があるなどの運転技術上の問題があると考え、その矯正を目的としてなされた業務命令であることが明らかであり、目的において正当である。
 また、その手段としては、被告Yから班長運転士に対して原告の欠点と思われる事項が申送りされている上、原告自らに運転をさせ、そこに添乗した熟練の班長運転士に、その度に個別に欠点を指摘させる方法をとっているのであるから、適切なものというべきである。実際、添乗指導の内容として、最初の添乗指導日である九月四日に原告の左寄りの傾向が指摘され、その後同月一八日にはその傾向がなくなってきたとの指摘があるから、右指導が一定の矯正効果を発揮していることも明らかである。
 よって、原告に対する第二業務命令は、もとより適法妥当なものであって、違法とは認められない。