全 情 報

ID番号 07393
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 同和観光(解雇)事件
争点
事案概要  ゲーム場、ボーリング場、パチンコ店、ゴルフ場を経営する会社の従業員四名(原告)が、会社が右四名の者の入室を拒んで事務所玄関扉を閉ざしたのに対して、会社警備員の制止を振り切って事務所内に侵入し、小切手帳等を奪取し会社の業務を妨害した等として解雇され、その効力を争って、地位確認を請求したケースで、会社主張の理由は右行為が業務を著しく阻害するなどの事情がないかぎり解雇事由には該当しない、金銭着服等を理由とする解雇についてはそれを認めるに足りる証拠がない、会社の整理解雇の主張については、人員削減の必要性や解雇回避のための努力がなされていない等として斥けられ、原告の請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法89条1項9号
労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
裁判年月日 1999年10月15日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 10738 
裁判結果 一部認容、一部却下(確定)
出典 労働判例775号33頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
 被告は、平成一〇年六月一〇日午前中、原告X1が本社事務所を閉鎖したことや同原告らが仮処分審尋のため裁判所に出頭したことを会社支配権の簒奪であり職場放棄であるとして解雇事由としているところ、確かに、前記認定のとおり、原告X1が同日午前中本社事務所を閉鎖した事実は認められるし、同人が従前から事務所の管理を行ってきたことを考慮しても、同人はただの従業員に過ぎないのであるから、自らが当事者でもない仮処分事件の審尋に赴くためという理由で事務所を閉めたことは権限逸脱のそしりを免れないし、その間業務を離れていたことも非難を免れないところである(なお、証拠上は明らかでないが、弁論の全趣旨からして、原告X2や同X3も右の審尋期日には裁判所に出向いていたと認められ、そうだとすると、同様の非難に値する)。
 しかしながら、まず、解雇通知書(〈証拠略〉)には、前記のとおり、何ら解雇事由は記載されておらず、同日付で発送されていることなどからして、もともと、被告がこれを主位的解雇の解雇事由とする意図であったかは疑わしい。また、事務所閉鎖といっても、午後からは通常どおりの執務が行われており、午前中のみの休業というべきであって、これを会社支配権の簒奪と評するのは誇張であるし、右の休業によって被告の業務に重大に(ママ)支障が生じたとの主張立証はない。さらに、被告が株主や役員等を親族等で構成するいわゆる同族会社であり、同原告らにとっては、それまで、Aの後を継いで被告の実務に携わってきた実母であり、被告取締役であるBが、被告から排除されようしており、その背景には同原告らも関わっていると主張されている被告の売上金着服等の疑いがかけられているというのであるから、裁判の経緯について同原告らとしても無関心ではいられないところであり、裁判の経緯を見守るために職場を一時的に離脱したこともある程度はやむを得ないところである。
 そうすると、原告X1が、自己の判断のみで事務所を午前中休業したことや同原告らが、当事者でもない裁判に出向くためとの理由で職場を離れたことは、何らかの懲戒等の原因とされることは免れないとしても、懲戒解雇はもとより、即時解雇の事由としなければならないほど重大な非違行為とは認められない。
 よって、同原告らに対する主位的解雇に正当事由があるとは認められず、主位的解雇の意思表示は無効である。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 原告X1が、事務所への入室を拒否されたことに対抗し、Bや原告X2、同X3らの協力を得て出社を強行するなどの措置に出たことには、被告自ら誘発した面が少なくないと考えられ、これをとらえて新たな懲戒解雇の事由とすることは、いかにも信義に反するというべきである。〔中略〕
 以上のような観点からみると、被告は、右原告らの行為が懲戒解雇事由を定めた就業規則二六条の八号及び一〇号に該当するというが、右原告らが本社事務所で大声を上げたり、警備員ともみ合ったり、あるいは玄関扉を叩いたりなどし、さらには事務所に泊まり込んだりしたのは、被告が解雇したとして原告X1の事務所入室を拒否したりしたためであり、原告X1は手形帳等を持出してはいるが、これを弁護士に預け、必要に応じて手形等の発行事務も行っていたというのであるし、被告の業務に著しい支障が生じたとも認められないから、これらが実質的にみて右就業規則の懲戒解雇事由に該当するということはできない。
 そうすると、予備的解雇の意思表示は、懲戒解雇事由に該当する非違行為を認めることができないから、懲戒解雇としてはもとより即時解雇としても無効というべきである。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 整理解雇が有効であるためには、原則として、人員削減の必要性があること、使用者が解雇回避のための努力をしたこと、被解雇者の選定が妥当であること、手続が妥当であることが必要であると解される。
 しかるに、被告が債務超過であることについては当事者間に争いはないが、被告に強い人員削減の必要性が存することやこれまでに被告が何らかの人員削減回避のための努力をしたことについては、これを認めるに足る証拠はないし、被告は、原告らが売上金着服に加担していたことをもって人選の妥当性や説明義務を負わないことの理由としているところ、前記のとおり、原告らが金員着服に加担していたとの事実は認められないのであるから、本件整理解雇は著しく不当であって、被告がした整理解雇の意思表示は無効というべきである。