全 情 報

ID番号 07428
事件名 療養補償等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 中小企業労働災害事件
争点
事案概要  労災保険法に基づき中小企業事業主等の特別加入者として承認され労災保険に加入している代表取締役Xが、所定労働時間終了時刻を過ぎて、一旦食事を取りに行った後に、一人でプレス加工作業に従事していたところ、プレス機に左腕を挟まれ、左腕を切断する障害を負ったことから、横浜北労働基準監督署長に対し、右障害が労働災害であるとして労災給付(療養補償給付及び休業補償給付)の申請をしたが、右作業は就業時間内に継続して行われる準備、後始末の業務と認められず業務遂行性がないとして不支給決定処分を受けたため、右処分の取消しを請求したケースで、通達で示されている業務遂行性の認定基準に該当しない場合については労災保険の給付が受けられないとすることは労災保険法の趣旨に反しないとし、本件事故は右通達のいずれの場合にも該当しないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法27条1項
労働者災害補償保険法31条
労働者災害補償保険法施行規則46条の26
体系項目 労災補償・労災保険 / 労災保険の適用 / 特別加入
裁判年月日 1999年4月20日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (行ウ) 57 
裁判結果 請求棄却(確定)
出典 タイムズ1046号148頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-労災保険の適用-特別加入〕
 労災保険制度は、本来、本来労働者の業務災害等に対する保護を目的とする制度であって、労働者以外の者を保護の対象とするものではないが、中小企業主等、業務の実態や災害の発生状況から見て、労働者に準じて保護を与えるべき者がいることから、労災保険の趣旨を損なわず、かつ保険技術的に可能な範囲で特に労災保険への加入を認めて、これらの者についての業務災害等に対する保護を与えることが特別加入制度の趣旨である。このうち、中小企業主等に関する特別加入制度(労災保険法二八条)は、労働者に関して成立している労災保険にかかる労働保険の保険関係を前提として、右保険関係上、事業主を労働者とみなすことにより、当該事業主に対する同法の適用を可能とする制度である(最高裁判所平成九年一月二三日第一小法廷判決・労働判例七一六号六頁参照)。右労災保険法二八条の規定の趣旨からすれば、中小企業主等に関する特別加入制度は、事業主としての面と労働者としての面を併せもっている中小事業主等の業務内容のうち、労働者としての面に着目し、所定労働時間若しくはそれに接着した時間又は労働者(従業員)が現実に就労している時間等、労働者について労災保険にかかる労働保険の保険関係が成立している間において、事業主自身が労働者として就労している場合に労働災害を負ったときについて、当該事業者についての労災事故を労災保険の保護の対象とするものである。したがって、所定労働時間や労働者が現実に就労している時間等以外の時間に行った業務については、むしろ、事業主が任意に業務を行うものであって、事業主としての本来の業務と見るべきことから保険給付の対象としていないものである。
 ところで、特別加入者に関する「業務災害の認定」については、労災保険法三一条の委任を受けた労災保険法施行規則四六条の二六が、「労働省労働基準局長が定める基準によって行う。」と定め、それを受けて、本件通達が特別加入者の業務上外の認定を行うか否かについて、中小事業主等の特別加入者については〔1〕特別加入申請書別紙の業務の内容欄に記載された所定労働時間内において、特別加入の申請に係る事業のためにする行為(事業主としての立場で事業主本来の業務を行う場合を除く。)及びこれに直接附帯する行為を行う場合、〔2〕労働者の時間外労働に応じて就業する場合、〔3〕就業時間に接続して行われる準備・後始末の業務を特別加入者のみで行う場合等に業務遂行性を認める旨の定めをしている。
 このように本件通達は業務災害の認定基準を定めているところ、右摘示にかかる基準が前示の労災保険法二八条の解釈を逸脱していないことは明かである。そして、本件通達が、特別加入申請書の別紙に業務の種類と所定労働時間を記入させて、保護の範囲を明確にし、かつ特別加入を承認するか否かの判断材料としたうえで、特別加入が承認された場合は右業務の種類と所定労働時間に含まれる業務については原則として業務遂行性を認めて保護するとともに、右の範囲を拡大するのは制限的に扱うという制度をとっていることは、労災保険法二八条及び労災保険規則四六条の二六の規定の趣旨からしても、やむを得ないところである。本件通達が定める基準によれば、事業主が事業主の立場において行う事業主本来の業務は給付の対象とならず、また所定労働時間外に事業主が単独で行っている業務については、就業時間中の業務と連続した後始末や準備行為でない限り給付の対象としないことになるが、これは、前記の労働者に準じて保護するという労災保険法の趣旨に反するとはいえない。