全 情 報

ID番号 07438
事件名 療養補償給付等不支給決定処分取消請求事件
いわゆる事件名 大阪中央労基署長・弘容商事事件
争点
事案概要  大阪で喫茶店等を経営する有限会社の代表取締役で、自ら厨房業務に従事し、家族及び生計を同じくしない姪らがそれ以外の業務を行うことで喫茶店営業していた労災保険法の特別加入者Xが、開店準備、厨房業務をした後に、福井県の温泉で開かれた飲食店の懇親会終了後に、意識を失って倒れ、搬送先の病院で脳内出血発症と診断されたことから、本件発症が、喫茶店での立ちっぱなしの長時間の業務に起因するものであるとして、大阪中央労基署長に療養補償給付たる療養費用及び休業補償給付の請求をしたが、不支給処分を受けたことから(審査、再審査請求も棄却)、右処分の取消しを請求したケースで、本件発症の原因はXの喫茶店営業業務による過重負荷にあるということができるところ、本件発症前二か月間について、特別加入制度の保護の対象業務としてはXの帰宅後の経理業務等は除かれるにしても、Xは開店前三〇分(準備作業)から閉店後一時間(後片付け)まで(一四時間三〇分)の長時間労働を続けており、その間の労働は従業員の退職のため、著しく繁忙で密度の高いものとなっており、休日があったものの疲労蓄積した状態であったことからXの保護対象業務は過重なものであり、本件発症状には業務起因性を肯定できるとして、請求が認容された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法27条1項
体系項目 労災補償・労災保険 / 労災保険の適用 / 特別加入
裁判年月日 1999年7月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (行ウ) 41 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例776号60頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-労災保険の適用-特別加入〕
 本件の争点は、原告の本件発症が、労災保険の特別加入者が保護される範囲の業務により生じたものといえるか否かである。これについて、
 1 原告が特別加入申請書に記載した業務(午前八時から午後六時までの喫茶業務)以外の本件発症前に原告が行っていた業務(午後六時から午後一〇時までの時間帯の喫茶業務及び右喫茶業務終了後の経理業務等)についての業務遂行性の有無
 2 1で認められた業務と本件発症との因果関係の有無(業務起因性の有無)が問題となる。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-労災保険の適用-特別加入〕
 原告の午後六時以降の業務は少なくとも午後八時までは従業員であったAの労働者としての業務を引き継いだ部分を含み、退職者の仕事を補う業務に事業主としての負担という面はあるとしても、退職前の従業員の残業に応じて就労していた部分までが、事業主としての業務に転化するものではなく、B、Cとともにした午後六時から午後九時までの時間帯の原告の業務は、本件通達【1】第1(1)ロによる労働者の時間外労働に応じて就労する場合として業務遂行性が認められる。そしてこれに接続する後片付けの時間についてもその業務遂行性を同通達ハにより肯定しうる。ただし、帰宅後の経理業務は就業時間に接続しないことから、特別加入の保護の対象業務と考えられない(本件通達【1】第1(1)ハ)。なお、日曜日の業務については、証人Cによれば、Aが辞めた後は開店せず、それまで就労していたのは原告とDにとどまるから、業務遂行性を肯定できない。
 (四) 以上より、原告の行っていた業務のうち、日曜日以外の午前七時三〇分から午後一〇時までの本件喫茶業務が、特別加入制度の保護の対象業務となるといえる。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-労災保険の適用-特別加入〕
 本件発症の原因は、原告の喫茶店営業業務による過重負荷にあるということができるところ、労災保険特別加入者としての保護対象業務としては、原告帰宅後の経理業務等が除かれるにしても、平成五年三月(ママ)頃二〇日から本件発症の日まで、日曜日を除く午前七時三〇分から午後一〇時頃までの長時間労働を続けており、その間の労働は従業員の退職のため著しく繁忙で、密度の高いものとなっており、休日はあったものの、喫茶店閉店後の帰宅時における車両運転状況からも疲労が蓄積した状況にあったことが窺われるのであり、原告の保護対象業務が過重なものであったと認めることができる。そこで、本件発症には業務起因性を肯定することができる。