全 情 報

ID番号 07442
事件名 職種変更処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 平和自動車交通(ハイヤー乗務員)事件
争点
事案概要  旅客自動車運送会社Yのハイヤー乗務員Xが、顧客の理不尽な言動をめぐり、右顧客に対し、ネクタイをつかみ引っ張り、下車を求めるなどしてトラブルを起こしたことから、YとX所属の労働組合との間の労働協約に基づき労使同数で構成される賞罰委員会の決定を経て、Yから乗務員として不適格であることを理由に整備工見習いへの職種変更命令がなされ、職種を整備工見習いとする労働契約書に署名捺印して右職務に従事していたところ、六〇歳到達により、自動車修理工員の六〇歳定年制が適用されて定年退職の扱いを受けた(ハイヤー乗務員の定年は六二歳)ことから、雇用契約上、Xの職種はハイヤー乗務員に限定され、職種変更には同意がいるが、職種変更に関する同意は右職種がいやなら解雇する旨が告げられたこと等による詐欺、強迫、錯誤等により無効であるとして、主位的にハイヤー乗務員たる地位にあることの確認と賃金差額を請求し、予備的に不法行為に基づく損害賠償を請求したケースで、就業規則及び労働契約書の記載からはYにはXの同意がなくても業務の都合により職種変更する権限が留保されていると解するのが相当であるが、職種限定の合意がなされていたとしても、Xは本件職種変更処分に同意し、同意を変更することにつき意思と表示の不一致もないことから、本件変更処分は有効であるとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法623条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 1999年8月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 21812 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例776号46頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 本件労働契約において原告の業務の種類をハイヤー乗務員とすることが合意されており、(証拠略)、原告本人尋問の結果によれば、原告が乗務員として勤務するつもりで本件労働契約を締結したことが認められるが、他方、(証拠・人証略)によれば、昭和五四年一月一日に改定、実施された被告の就業規則(ハイヤー・タクシー従業員に適用のあるもの。〈証拠略〉)には、「会社は業務の必要により従業員に職務、職種、勤務地等の異動を命ずることがある。この場合正当な理由がなくこれを拒否することはできない。」と規定されていること(一九条)、原被告間の昭和五七年六月二八日付け労働契約書(〈証拠略〉)には、「但し業務の都合に依り社命で変更することがある」と記載されていること、被告では、タクシー乗務員、ハイヤー乗務員を事務職員に職種変更したり、自動車修理工員をタクシー乗務員に職種変更した例があること、以上の事実が認められ、これらの事実によれば、被告には、原告の同意がなくても、業務の都合により原告の業務の種類を変更する権限が留保されていたものと解するのが相当である。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 (証拠略)及び原告本人尋問の結果によれば、被告のA常務が、原告に対し、本件職種変更処分を告知するに際し、「整備工場の見習いしかない、それがいやなら解雇する」旨告げたことを認めることができるが、右三で述べた本件トラブルにおける原告の言動が、ハイヤー乗務員としての適格性に重大な疑問を生じさせるものであったことからすれば、被告が、本来ならば解雇も考えられるところであるとしつつ、本件職種変更処分にとどめることとし、これを命じた判断に、行き過ぎがあるということはできないし、また、原告も、本件トラブル直後は事の重大性を十分認識していたからこそ、本件職種変更処分を甘んじて受け、整備工見習いとして改めて労働契約を締結することを了承し、平成八年四月一七日付け労働契約書(〈証拠略〉)に署名捺印して、同日、被告との間で、職種を整備工見習いとする労働契約を改めて締結したものであるから、被告が、本来解雇すべき理由がないにもかかわらず、これがあるもののように装い、原告をして整備工見習いを選ぶほかないものと誤信させ、かつ、原告を畏怖させて、職種変更について原告に同意する旨の意思表示をさせたものということはできないし、右同意が原告の錯誤によるものということもできない。