全 情 報

ID番号 07472
事件名 退職金請求事件、損害賠償請求事件
いわゆる事件名 北辰商品事件
争点
事案概要  先物取引等を業とする会社Yの営業部に所属し、既に退職した外務員Xが、会社の業績に貢献したことに対して支給される奨励金について、未収金の回収を条件として奨励手当の支給が留保され、「口座のねつ造新規」(他人名義使用の受託等)について新規賞が支給されず、また顧客中の仮名又は借名名義を使用した者に発生した多額の差損金の回収を命じられたことから、(1)XがYに対し、Yには右各奨励金支払義務があるとして、未払分の支払、(2)執拗な差損金の回収命令等により退職を余儀なくされたとして、慰謝料の支払を請求し(第一事件)、(3)YがXに対して、Xの顧客に発生した差損金が未回収になったため損害を被ったとして、差損金の残額と遅延損害金の支払を求める損害賠償請求した(第二事件)ケースで、(1)については、右各奨励金については、合理性を欠くものでない限り、会社は自由に支給条件を定めることができるとし、本件のような取扱は許されるとして請求が棄却され、(2)については、差額金の回収や回収の目途がつくまでの奨励手当の一部を留保したことは嫌がらせではなく、退職を余儀なくされたとはいえないとして、請求が棄却され、(3)については、Xが顧客の氏素性を明らかにしないことによって差損金回収の途を完全に閉ざされた結果、Yが損害を被ると予見していたものにつき債務不履行及び不法行為責任に基づく損害賠償請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法11条
民法709条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 特殊勤務手当
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
裁判年月日 1999年11月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 3099 
平成10年 (ワ) 1164 
裁判結果 棄却(3099号)、一部認容・一部棄却(確定)
出典 労働判例782号51頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-特殊勤務手当〕
 被告がチーム又はブロックに対して支給する奨励金は、顧客から預かった委託証拠金のチームごと又はブロック全体の増加分について支給されるものである(前記第三の一1(一))というのであるから、これらの奨励金はいわば被告の営業員が被告の業績に貢献したことに対して支給されるものであるというべきであり、そうであるとすると、被告がこれらの奨励金の支給に当たってどのように支給条件を定めることも本来自由であり、その支給条件が合理性を欠くものではない限りは、営業員はその支給条件に拘束されるものというべきである。そして、営業員の担当に係る顧客の買い付けた建て玉について未収金が発生した場合にその回収を条件として奨励金の支給を留保することは許されるものというべきである。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-特殊勤務手当〕
 被告が原告に配分された本件奨励手当のうち二分の一に相当する金二八万円を前記未収金(差損金)の回収のめどが付くまでという条件付で留保したことは当然のことというべきであり、被告が本件奨励手当のうち金二八万円を留保したことに何ら違法な点はない。
 そして、現在に至るまで前記未収金(差損金)のうち少なくともA名義の口座に係る分については回収のめどが全く付いていないことは後記第三の三1で認定した事実から明らかであって、いまだ本件奨励手当のうち金二八万円の支給を留保した際に付けられた条件は成就していないというべきである。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-特殊勤務手当〕
 被告が社員個人に対して支給する新規賞は、新規に顧客を開拓した場合に支給されるものである(前記第三の一1(一))というのであるから、この奨励金はいわば被告の営業員が被告の業績に貢献したことに対して支給されるものであるというべきであり、そうであるとすると、被告がこの奨励金の支給に当たってどのように支給条件を定めることも本来自由であり、その支給条件が合理性を欠くものではない限りは、営業員はその支給条件に拘束されるものというべきである。そして、商品取引において仮名口座、借名口座が持つ危険性(前記第三の一1(三))に照らせば、ねつ造新規については新規賞を支給しないこととすることは許されるものというべきである。
 そして、本件新規建て玉がねつ造新規であることは前記第二の二4、第三の一1(四)から明らかであるから、被告には本件新規賞として金一万五〇〇〇円の支払義務があることを認めることはできない。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 およそ商品取引員たる会社と外務員との間の雇用契約の趣旨からして、外務員は、自己の担当した顧客に関しては、委託追証拠金預託事由発生の通知、差損金債権の回収などの業務上の必要性にかんがみ、会社に対し、顧客の真実の氏名、住所などを告知すべき義務があるものというべきであるにもかかわらず、原告は、被告の外務員である(ママ)ながら、自己の担当する顧客であるA名義の口座の名義人の真実の氏名、住所などを被告に告知しなかったこと、被告がこれによって右の口座に発生した差損金相当額の損害を被ったこと、原告が右の口座の名義人の真実の氏名、住所などを被告に告知しないことによって被告が右の口座に発生した差損金と同額の損害を被ることになることを予見していたことは、前記第三の三2で認定、説示したとおりであるから、原告は被告に対し被告がA名義の口座について被った差損金に相当する金五一四万七〇三八円について不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償責任を負うものといわなければならない。
 しかし、原告はB名義の口座の名義人の真実の氏名、住所などを被告に告知しなかったが、被告がこれによって右の口座に発生した差損金相当額の損害を被ったということができないことは、前記第三の三2で認定、説示したとおりであるから、原告は被告に対し被告がB名義の口座について被った差損金に相当する金五二七万四五二六円について不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償責任を負うということはできない。