全 情 報

ID番号 07495
事件名 雇傭関係不存在確認、地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 代々木ゼミナール事件
争点
事案概要  大手予備校Yが、生徒数が大幅に減少した浜松校の営業活動等を強化するために管理職を増員させる必要があったところ、適任と考えられる広報企画部広報課チーフの職にあった労働者Xに対して東京から浜松への転勤を伴う浜松事務局課長への配転命令をしたが、Xは妻及び両親と3人の子(小学校低学年二人、生後2か月の子)と同居していたが、仮に単身赴任すると支出の増加をもたらすなどの不利益があることを理由に、これを拒否したため、就業規則の規定に基づき、Xを解雇したことについて、(1)YがXに対し、雇用関係不存在確認を請求した(本訴)のに対し、(2)XがYに対し、本件配転命令は必要性も合理性もなく、またXらによる労働組合結成の通知直後、経営者幹部はその動きに対して神経を尖らせていたことから、不当労働行為に該当する等として、権利の濫用により無効であり、それに伴う解雇も解雇権の濫用により無効であるとして、雇用契約上の地位及び賃金等の支払を請求したケースの控訴審で、原審の結論(Xの本訴は不適法却下、Yの反訴は棄却)と同様に、本件配転命令は業務上の必要性があり、不当労働行為の意思があったとは認められず、Xの被る不利益も社会通念上甘受すべき程度を著しく超えるものとはいえないことから、Xの控訴が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2000年1月26日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ネ) 5538 
裁判結果 控訴棄却(上告)
出典 タイムズ1044号101頁
審級関係 一審/07237/東京地/平10.11. 6/平成5年(ワ)22578号
評釈論文 中園浩一郎・平成13年度主要民事判例解説〔判例タイムズ1096〕278~279頁2002年9月
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 前記一のとおり、被控訴人は、業務上の必要に応じ、その裁量により控訴人の勤務場所を決定することができるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、被控訴人の転勤を命じる権限も、無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されないのであって、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合でも、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってされたものであるとき若しくは労働者に対し社会通念上甘受すべき程度を著しく超える経済的、社会的、精神的不利益を負わせるものであるとき等の特段の事情の存する場合には、当該転勤命令は権利の濫用になるというべきである。そして、右の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定するのが相当である(最高裁昭和六一年七月一四日第二小法廷判決・裁判集民事一四八号二八一頁、判例時報一一九八号一四九頁、判例タイムズ六〇六号三〇頁参照)。
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 控訴人は、本件配転命令は控訴人の生活及び労働組合活動に重大な不利益を及ぼすもので、被控訴人の権限濫用によるものであるから無効であると主張する。そこで、本件配転命令は、控訴人に社会通念上甘受すべき程度を著しく超える経済的、社会的、精神的不利益を負わせるものであるか否かを検討する。
 1 証拠(乙六九、原審における控訴人本人)によれば、本件配転命令当時、控訴人は、妻A及び三人の子並びに控訴人の両親と現住所の一軒家に同居していたこと、三人の子は、小学校三年生の長男B、小学校一年生の長女C及び生後二箇月の次女Dであり、その養育には控訴人と妻が協力し合うことが必要であったこと、七〇歳になる父と六三歳になる母は、地域の中でボランティア活動や政治活動に従事していたこと、家事や育児は専業主婦であるAが主に責任を負っており、控訴人は、帰宅すると、子供の勉強を見たり家事を手伝ったりしていたこと、控訴人は、一軒家を増築し、ローンの支払を負担しなければならなかったこと、当時の控訴人の手取り賃金は、月額二八万六九〇〇円であるが、毎月のローンの返済額は八万円であったこと、被控訴人が用意した三DKの社宅でも、控訴人一家全員が移り住むには手狭であったこと、また、控訴人の両親が東京に残り控訴人が妻子とともに浜松に転居した場合は、二重生活による支出の増加が見込まれ、控訴人の単身赴任も、右同様支出の増加をもたらすものであったことが認められる。
 しかしながら、証拠(甲一二、原審における証人E、同控訴人本人)によれば、被控訴人は、浜松に三DKの社宅を用意し、その賃料全額を賄う住宅手当の支払を申し出ていた上、課長手当月額三万円を支給することとして控訴人の経済的負担に対する配慮をしていたこと、本件配転命令当時、三人の子供も控訴人の両親も、特に健康に問題は見られなかったこと、控訴人の父は年金を受給していたことが認められる。そうすると、仮に控訴人が単身赴任し、又は、妻子とともに浜松の社宅に転居しても、東京と浜松は新幹線を利用すれば概ね三時間以内で往来できる距離であるから、子供の養育や両親の介護の必要性に応じて協力することが著しく困難であるとはいえないし、ローンの負担が残っていたとはいえ、住宅手当及び課長手当の支給に加え、両親の協力も仰ぐならば、一家が経済的に困窮するとは到底考えられない。これらの認定と昭和六〇年五月から平成五年五月までの間にYグループ内で転居を伴って配転、出向を命じられた者は、家族同伴、単身赴任も含め約九〇名に及んでいるとの前記認定の事実を総合すると、本件配転命令が控訴人に与える経済的、社会的、精神的不利益は、転勤に伴い社会通念上甘受すべき程度を著しく超えるものと認めることはできない。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 右労働組合の結成準備において、代々木校に数多くの協力者がいたことは明らかであるし、控訴人が浜松校に転勤した後であっても、新幹線を用いて上京し、電話やファクシミリを活用して右の協力者らと連絡を取り合うなどすることにより、代々木校の労働組合の活動に協力することは、さほど困難ではなかったはずである。そうすると、控訴人が転勤することにより、組合の活動が著しく困難を来すとまで断定することはできず、したがって、本件配転命令は、控訴人に対し、転勤に伴い通常甘受すべき程度を著しく超える社会的不利益を与えるものと認めるには足りない。
 3 よって、本件配転命令は、権利の濫用に当たらないと解するのが相当であり、そうであれば、本件解雇が解雇権の濫用により無効であるということもできない。