全 情 報

ID番号 07505
事件名 解雇無効確認請求事件
いわゆる事件名 旭川大学(外国人教員)事件
争点
事案概要  学校法人Yが設置・運営する私立大学と期間一年の労働契約を締結し、外国人教員招聘規程に基づき六回更新後、新就業規則である「特別任用職員の任用並びに給与等に関する規定」等の施行に伴い、期間を一年間、勤務年限五年間の内容で、新たな身分である特任教員として勤務する(校務分掌等あり)旨の労働契約を締結し、右契約を四回更新していた外国人教員Xが、Yでは少子化や不況等の影響による入学志願者数の減少に対応するため語学教育改革等が実施されていたところ、Xの必要性が相対的に低下していること、有期間労働契約による人事の流動化等を図る必要があることを理由に、勤務年限満了時に労働契約の更新をしない旨の通知がなされ最初の雇止めがなされたが、Xが提訴した労働契約上の地位確認を求める訴訟においては和解が勧告されたため、雇用期間は右勤務年限満了時の翌日から一年とし、更新可能回数は一回とする等の和解が成立し、これに基づいて右契約が一回更新されたが、期間満了により二度目の雇止めがなされたことから、本件雇止めには解雇法理の適用又は類推適用により権利濫用又は信義則違反として無効であるとして、解雇無効確認を請求したケースで、本件労働契約は期間の定めのない労働契約に転化し、又はこれと同視されるべき状態になっていたということはできないとしつつも、更新を重ねて一四年間もYに勤務継続していたこと等から和解で明示された勤務年限満了後の雇用継続を期待することに合理性があったとし、解雇法理が類推適用されるとしたうえで(専任教員を解雇する場合よりは基準が緩和して解釈されるとした)、本件雇止めは社会通念上相当とされる客観的合理的理由があるものと解するのが相当であり有効として、Xの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法14条
労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 2000年2月1日
裁判所名 旭川地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 276 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例791号21頁/労経速報1735号11頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 原被告間で締結された労働契約はいずれも一年の有期間労働契約であり、その職務内容も、経済学部のみの単科大学において外国人語学教員として英語を教えるというものであるから期間の定めのある雇用に親しむものであること、特任教員となってからも勤務年限五年以内の契約更新をもって期間の定めのない雇用関係にあるとはみなさない旨を確認する勤務期間合意確認書が交わされていたこと、雇用の性質については前件訴訟事件においても争われ、前件和解において、雇用期間が一年と明記され、特任教員の勤務年限の合意も二年間(更新可能回数一回)とされていたこと、特任教員は、期間の定めのない専任教員の場合のような公募を原則とした厳しい採用基準を経て採用されたものではないこと(〈証拠略〉)などからすれば、原被告間の労働契約が原告主張のように期間の定めのない労働契約に転化し、又はこれと同視されるべき状態になっていたということはできない。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 〔1〕原被告間の労働契約が一三回にわたって更新され続けた結果、原告は一四年間も被告大学に勤務し続けていたこと、〔2〕とりわけ原告は平成三年度に特任教員となってから、就業規則その他関係規定において、賃金体系及び雇用期間を除いて専任教員と同様な権利義務を有するものとされ、原則として教授会への出席義務を負担し、校務も分掌し得る立場となり、五年間の勤務年限の合意をするなど、専任教員と非常勤教員との間の中間的な身分を取得していたといえること、〔3〕特任規定には被告大学が必要と認める場合には合意された勤務年限終了後も更新されることがある旨の規定があったこと、〔4〕原告が特任教員となった際、被告側から五年の勤務年限経過後には更新をしない旨の説明を受けていなかったことのほか、〔5〕前件保全事件においては、前件雇止めには正当な理由がなく、原被告間の雇用関係が継続されているという原告の主張内容をほぼ認める決定がされていたこと、〔6〕その後の前件和解においても、更新の有無が争われていながら、二年の勤務年限経過後の更新の可能性についての明示的な和解文言がなく、いわば玉虫色に解決された上、原告が左陪席裁判官(前件保全事件を単独で担当した裁判官)より「被告大学側から、平成一〇年三月三一日の経過により、確定的に雇用関係が終了する旨の確認は求めない内容で和解することが可能であり、かつこれを希望する旨の連絡がありましたので、至急ご検討下さい。」というファックスを受領し、再雇用があり得ると期待して前件和解に応じたという経過があったことを併せ考えると、原告が前件和解で明示した勤務年限の満了後の雇用継続を期待することに合理性があったものと認めることができる。
 したがって、本件雇止めには解雇に関する法理が類推適用され、本件雇止めを有効であるというためには、単に労働契約の期間が満了したというだけでは足りず、「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が存在していたことが必要である。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 右のように本件雇止めには解雇に関する法理が類推適用されるけれども、〔1〕特任教員は、専任教員のような公募を原則とする厳しい採用基準を経て採用されたものではないこと、〔2〕教授会への出席義務や校務分掌についても専任教員とは異なっており、本人の申出により特別の事情があると認められる場合には教授会の決議を経てその出席義務が免除され、実際にも原告は教授会に全く出席していなかった上、恒常的な校務を分掌していなかったこと、〔3〕原告は被告大学以外の大学にも非常勤教員として勤務し続けており、被告大学への拘束性が希薄であったことなどに照らすと、特任教員である原告を雇止めする場合に要求される「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」は、専任教員を解雇する場合のそれとはおのずから合理的な差異があり、これを緩和して解釈することが相当である。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 少子化や不況等の影響によって入学志願者数の減少傾向が顕著となっていた被告大学が、魅力ある大学として生き残るためには語学教育改革をはじめとする教育改革を断行することが必要不可欠な情勢にあり、そのような語学教育改革の実施の中で、特任教員として一般英語等を担当してきた原告の必要性が相対的に低下し、原告の再雇用が困難となっていたことに加え、有期間労働契約による人事の流動化が大学という高度教育研究機関の活性化を図り、社会情勢の変化に即応した教育研究活動を促進させるという側面があること(〈証拠略〉)、その他前記認定の諸事情を総合考慮すると、本件雇止めについては「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」があるものと解するのが相当であり、原告主張のように本件雇止めが権利濫用あるいは信義則違反として無効となるものとはいえない。