全 情 報

ID番号 07520
事件名 賃金請求上告事件
いわゆる事件名 三菱重工業長崎造船所(一次訴訟・会社側上告)事件
争点
事案概要  Y社長崎造船所の従業員であるXら二七名が、右造船所では、完全週休二日制の実施に当たり、就業規則を変更して、所定労働時間を一日八時間(休憩時間は正午から午後1時までの一時間とする)とし、始業・終業基準として、(一)始業に間に合うように更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に実作業を開始し、(二)午前の終業においては所定の終業時刻に実作業を中止し、(三)午後の始業に当たっては右作業に間に合うように作業場に到着し、(四)午後の終業に当たっては所定の終業時刻に実作業を終了し、終業後に更衣等を行うこととされ、始業・終業の勤怠把握基準としては、従前の職場の入口又は控所付近に設置されたタイムレコーダーによる勤怠把握を廃止し、更衣を済ませ始業時に所定の場所にいるか否か、終業時に作業場にいるか否かを基準に判断する旨が新たに定められ、当時Xらは実作業に当たり、作業服のほか保護具、工具等の装着を義務づけられ、これを怠ると懲戒処分等を受けたり、成績査定に反映されて賃金の減収につながる場合があったところ、就業規則の定めに従って所定労働時間外に行うことを余儀なくされた(1)入退場門から所定の更衣所までの移動時間、(2)更衣所等において作業服のほか所定の保護具等を装着して準備体操場まで移動時間、(3)午前ないし午後の始業時刻前に副資材等の受出し・午前の始業時刻前の散水に要する時間、(4)午前の終業時刻後に作業場から食堂等まで移動し、現場控所等において作業服等を一部離脱する時間、(5)午後の始業時刻前に食堂等から作業場等まで、作業服等を再装着する時間、(6)午後の終業時刻後に作業場等から更衣所等まで移動してそこで作業服等を脱離する時間、(7)手洗い、洗面、洗身、入浴後に通勤服を着用する時間、(8)更衣所等から入退場門まで移動する時間が、いずれも労働基準法上の労働時間に該当するとして、八時間を越える時間外労働に該当する右諸行為に対する割増賃金等を請求したケースのY側の上告審で、一審と同様に、(2)、(3)及び(6)の諸行為に要した時間は、いずれもYの指揮命令下に置かれているものと評価でき、労働基準法上の労働時間に該当するとしてXらの請求を一部認容した原審の判断が正当として是認できるとして、Yらの敗訴部分取消しを求めた上告が棄却された事例。
参照法条 労働基準法32条
体系項目 労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 着替え、保護具・保護帽の着脱
裁判年月日 2000年3月9日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (オ) 2029 
裁判結果 棄却(確定)
出典 民集54巻3号801頁/時報1709号122頁/タイムズ1029号161頁/裁判所時報1263号1頁/労働判例778号11頁/労経速報1728号5頁
審級関係 控訴審/06454/福岡高/平 7. 4.20/平成1年(ネ)193号
評釈論文 安枝英のぶ・月刊法学教室241号162~163頁2000年10月/吉田肇・平成12年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1065〕380~381頁2001年9月/西川知一郎・ジュリスト1190号125~127頁2000年12月1日/西川知一郎・最高裁判所判例解説――民事篇<平成12年度>〔上〕〔1月~4月分〕168~223頁/西川知一郎・法曹時報53巻8号242~297頁2001年8月/西村健一郎・判例評論503〔判例時報1728〕227~230頁2001年1月1日/石橋洋・法律時報72巻10号105
判決理由 〔労働時間-労働時間の概念-着替え、保護具・保護帽の着脱〕
 労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。そして、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される。〔中略〕
〔労働時間-労働時間の概念-着替え、保護具・保護帽の着脱〕
 右事実関係によれば、被上告人らは、上告人から、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられ、また、右装着を事業所内の所定の更衣所等において行うものとされていたというのであるから、右装着及び更衣所等から準備体操場までの移動は、上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができる。また、被上告人らの副資材等の受出し及び散水も同様である。さらに、被上告人らは、実作業の終了後も、更衣所等において作業服及び保護具等の脱離等を終えるまでは、いまだ上告人の指揮命令下に置かれているものと評価することができる。
 そして、各被上告人が右二(五)(1)ないし(3)の各行為に要した時間が社会通念上必要と認められるとして労働基準法上の労働時間に該当するとした原審の判断は、正当として是認することができる。