全 情 報

ID番号 07535
事件名 譴責処分無効確認等請求上告事件
いわゆる事件名 日本電信電話(年休)事件
争点
事案概要  NTTの職員で通信労組組合員でもあるXが、交換課課長の命令により職場の代表者として約一か月にわたるデジタル交換機に関する技能者養成、訓練のための研修に参加中、全労連の結成大会に出席するために、三日前に一日分の組合休暇の取得申請をしたところ、上司は技能訓練中であることを理由として組合休暇を認めなかったため、Xは再度、前日に年休取得の申請をしたが時季変更権を行使されたところ、大会当日、訓練に参加しないで講義を受講せず、翌日には講義を受講したが、その翌月には右訓練の欠席は無断欠席であり就業規則の懲戒事由(上長の命令に服さない、職場規律に違反する行為のあったとき)に該当することを理由に、譴責処分がなされ、同処分がされたことを理由に就業規則に基づき職能賃金の定期昇給額の四分の二を減額されるとともに、同日分の賃金が削減されたことから、会社の時季変更権の行使は違法かつ不当労働行為であり、右譴責処分は権利の濫用により無効であるとして、処分の無効確認と減額賃金の支払を請求したケースの会社による上告審で、研修期間中に年休が請求されたときは、使用者は具体的な訓練内容がこれを欠席しても予定された知識、技能の修得に不足を生じさせないものと認められない限り、時季変更権を行使することができるとして、一審の結論(譴責処分を権利濫用とした)と同様に時季変更権の行使を違法として本件処分を無効とした原判決は違法として、破棄、差し戻された事例。
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 2000年3月31日
裁判所名 最高二小
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (オ) 1026 
裁判結果 破棄差戻(差戻)
出典 民集54巻3号1255頁/時報1709号128頁/タイムズ1028号143頁/裁判所時報1264号10頁/労働判例781号18頁/労経速報1731号3頁
審級関係 控訴審/東京高/平 8. 1.31/平成7年(ネ)5139号
評釈論文 奥野寿・ジュリスト1204号89~92頁2001年7月1日/山崎文夫・労働判例784号6~13頁2000年9月1日/小畑史子・平成12年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1202〕217~219頁2001年6月/小畑史子・労働基準52巻12号28~32頁2000年12月/大橋寛明・ジュリスト1195号112~113頁2001年3月1日/大橋寛明・最高裁判所判例解説――民事篇<平成12年度>〔上〕〔1月~4月分〕389~404頁/大橋寛明・法曹時報54巻4号172~188頁2002年4月/中村和夫・静岡大学
判決理由 〔年休-時季変更権〕
 前記事実関係によれば、本件訓練は、上告人の事業遂行に必要なディジタル交換機の保守技術者の養成と能力向上を図るため、各職場の代表を参加させて、一箇月に満たない比較的短期間に集中的に高度な知識、技能を修得させ、これを所属の職場に持ち帰らせることによって、各職場全体の業務の改善、向上に資することを目的として行われたものということができる。このような期間、目的の訓練においては、特段の事情のない限り、訓練参加者が訓練を一部でも欠席することは、予定された知識、技能の修得に不足を生じさせ、訓練の目的を十全に達成することができない結果を招くものというべきである。したがって、このような訓練の期間中に年休が請求されたときは、使用者は、当該請求に係る年休の期間における具体的な訓練の内容が、これを欠席しても予定された知識、技能の修得に不足を生じさせないものであると認められない限り、年休取得が事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使することができると解される。〔中略〕
〔年休-時季変更権〕
 原審は、右講義には教科書があるから自習が可能であること、被上告人の所属していた職場である交換課は共通線信号処理装置にかかわる業務を担当していたことなどを根拠に、被上告人の努力により欠席した四時限の講義内容を補うことが十分可能であるなどとして、右欠席が本件訓練の目的達成を困難にするとはいえないと判断している。
 しかしながら、通常は、教科書に基づいて自習することをもって四時限の講義によるのと同程度の知識、技能の修得が可能であるとは解されず(参加者に教科書等に基づく自習による場合よりも高い程度の知識、技能を修得させるために、本件訓練のような形態の研修が行われるものというべきである。)、六時限の講義のうち最初の四時限を欠席した者が残る二時限の講義を受講することで不足を補うことも困難である。のみならず、そもそも、被上告人が自習をすることは被上告人自身の意思に懸かっており、上告人は、時季変更権を行使するか否かを決定するに際して、右自習がされることを前提とすることができないから、自習がされない場合における事業の運営への影響を考慮することが許されるものというべきである。また、交換課の右の担当業務や被上告人の前記職歴から、被上告人が右講義において修得することが予定されていた知識、技能をあらかじめ有していたと即断することはできない。被上告人が本件訓練をおおむね普通以上の評価をもって終了したことも、時季変更権行使の時点では上告人の予見し得ない事情にすぎない上、右講義において予定されていた知識、技能の修得に不足を生じなかったことを直ちに裏付けるに足りる事情ということもできない。
 集合訓練中の年休取得の事例や年休の取扱いに関する原判示の事実も、本件における年休の取得が本件訓練の目的達成を困難にすると判断することを妨げるものとはいえない。
 3 以上によれば、前記事実関係に基づいて本件の年休の取得が上告人の事業の正常な運営を妨げるものとはいえないとした原審の前記判断は、法令の解釈適用を誤ったものというべきであり、右の違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかである。