全 情 報

ID番号 07543
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 住友金属工業(退職金)事件
争点
事案概要  鉄鋼・非鉄金属の製造販売等を目的とする会社Yに雇用され、平成六年に導入された早期退職優遇制度実施(満四五歳以上で定年退職前に退職する者に対して、退職時基本給及び勤続年数に基づいて定年退職扱いとして算定した額に退職日より所定定年退職日までの残年数に応じて一年当たり二〇〇万円で算出した金額を加算金として支給する制度)に従い、平成七年にいずれも定年年齢到達前に退職し、同制度の適用を受けて加算金を受領したXら一一名が、Y関連会社A及びBへの出向者及びYの余剰人員の職種転換のための職業訓練センターC在籍者のうち平成七年七月ないし九月に退職した者については、前記優遇制度のみでは再編により生じる余剰人員に対応できないことを理由に、前優遇制度による加算金のほか、更に残年数一年当たり五〇万円ないし一〇〇万円で算出した上積金を支給する加算特別取扱いが実施され、更に同年四月ないし六月にYを既に退職した者一五人についても、上積金の請求を受けて同年九月に残年数一年当たり五〇万円で算出した上積金を支給されていたことから、前記取扱いは平等取扱義務に反するもので債務不履行及び不法行為になるとして、残年数一年当たり五〇万円で算出した上積金相当の支払を請求したケースで、退職金に関する加算金は、退職金を勧奨する必要性の度合いにより、その時期や所属部署によって、その支給額が変っても、平等原則に違反しないとして、YにはABCにおいて、特に多人数の希望退職を求める必要性があったのであるから、平等取扱い義務違反があったとはいえないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項2号
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 早期退職優遇制度
裁判年月日 2000年4月19日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 11687 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例785号38頁/労経速報1746号24頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 被告は、A株式会社、B株式会社及び被告のCセンターの再編に伴い生じる余剰人員二八〇人について、他の部所(ママ)において退職者を募集し、配転により、その後任に右余剰人員を充てることはそれぞれの部所に必要な人員が配置されていることからすれば困難であり、また、従前の退職優遇制度ではこれに応じる者の数にも限界があったことから、希望退職者を増加させる目的で、加算金支給を決めて退職勧奨したものであると認められる。憲法及び労働基準法が平等原則を定めるのは原告ら指摘のとおりであり、労使の協議において組合員の異動について公正妥当を期して扱う旨の合意がされていることも認められるが、その規定や合意があらゆる労働条件やこれに付随する事項について機械的な平等を要求するものでないことは明白であり、右のような退職金に対する加算金は、退職勧奨に応じる対価であるから、退職を勧奨する必要性の度合いにより、その時期や所属部所によって、その支給額が変わっても、基本的には応諾は労働者の自由な意思によるものでもあり、平等原則に違反するとはいえないというべきである。そして、右認定のように、被告には、A株式会社、B株式会社及び被告のCセンターにおいて、特に、多人数の希望退職を求める必要があったのであるから、平等取扱い義務違反があったということはできない。
 また、原告らは、退職優遇制度の説明を聞いたときに、「同一条件で対応する。」「これ以上は出ない。」などと説明されたといい、これらをもって、被告が、第一次受領者又は第二次受領者と平等に扱うことを約したかのようにいうが、右説明によって、被告が、第一次受領者又は第二次受領者と平等に扱うことを約したというのは無理な推論である。右説明によって、原告らが原告らと異なる部所の者又はその後に退職する者に原告より多額の退職金が支払われることはないと信じたとしても、他の部所で又はその後に退職金に加算金を上積むこととなったからといって、被告に原告らに対しても加算金を支払わなければならない義務が発生するものでないし、原告らに法律上保護されるべき期待権が生じるものではない。
 さらに、原告らは、平等取扱の労使慣行があったというが、本件全証拠によるも、退職勧奨の場合の退職金に加算される金員について、部所による退職勧奨の必要性の度合いを無視して平等に扱わなければならないというような労使慣行が存在したとは認めることができない。〔中略〕
〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 同じ職場で退職しながら一日の違いで、加算金の有無という差が生じることには非情なものがあるが、第二次受領者については、本件加算特別取扱の実施前の退職者について加算金支給を遡及実施したもので、第二次受領者に加算金請求の権利があってされたものではなく、かかる遡及については、無制限に遡ることはできず、画一的に処理を要するものであるから、原告御手洗徹男が加算金の支給を受けられなかったこともやむを得ないところである。