全 情 報

ID番号 07550
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 ユナイテッド航空事件
争点
事案概要  米国デラウェア州法に準拠して設立された航空会社に雇用され旅客サービス職員(地上職)として国内の空港で勤務していた日本人労働者Xが、同会社の客室乗務員の募集に応募し、日本国内での面接・筆記試験等を経て、シカゴ本社で実際される選抜試験を含む客室乗務員訓練に参加した後、雇用契約書の内容説明等を経て、一か月前に既に写しが送付してあったシカゴ本社との雇用契約書に署名して契約を締結し、その後、日本における会社との雇用契約を終了させた後、シカゴ本社の客室乗務員として正式に採用され、日本を拠点に勤務していたところ、Xは、試用期間中に、勤務態度や英語力の問題等を理由として自主退職を勧められた結果、退職届を提出したが、右退職は、退職勧奨の強要に基づくもので実質的には本採用拒否に該当し、もしくは錯誤無効、強迫による取消し等を主張して、雇用関係存在の確認及び賃金の支払を請求したが、雇用契約書には、雇用関係に関する訴訟については、米国連邦裁判所ないしイリノイ州裁判所を専属的裁判管轄とする旨の記載がなされていたことから、右記載内容についても合意が成立していたかが争われたケースで、本件雇用契約は双方の合意に基づいて有効に成立し、専属的裁判管轄の合意も有効に成立しており、右合意は不合理ではなく公序法にも違反しないことから、管轄権のない日本の裁判所への地位確認等請求の訴えは不適法であるとして請求が却下された事例。
参照法条 法例33条
体系項目 解雇(民事) / 解雇と争訟・付調停
裁判年月日 2000年4月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 2929 
裁判結果 却下(控訴)
出典 労働判例788号39頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇と争訟〕
 原告は、英検準一級で、TOEICのスコアが八五〇点であり、米国の大学への留学可能なレベル七三〇点、被告が客室乗務員に要求するTOEFL五〇〇点(TOEIC七三〇点がTOEFL約五五〇点に相当する。)をかなり上回っており、英語の能力も十分であった(〈証拠略〉、原告本人)。これらのことからすると、本件雇用契約書の内容を検討吟味する時間がなかった、説明が不十分であった、原告は内容を理解することができなかった旨の原告の主張はいずれも採用できず、本件雇用契約は双方の合意に基づいて有効に成立したというべきであり、したがって、専属的裁判管轄の合意も成立したものというほかない。〔中略〕
〔解雇-解雇と争訟〕
 外国の裁判所を専属的管轄裁判所と指定する国際的専属的裁判管轄の合意は、当該事件がわが国の裁判権に専属的に服するものではなく、かつ、その外国の裁判所が当該外国法上その事件につき管轄権を有する場合には、原則として有効であり、国際的裁判管轄の合意は、少なくとも当事者の一方が作成した特定国の裁判所が明示され、合意の存在と内容が明白であれば足りるとするのが確立した判例である(最高裁判所第三小法廷昭和五〇年一一月二八日判決民集二九巻一〇号一五五四頁)。
 これを本件についてみると、わが国の裁判所が本件訴訟について専属的な管轄を有する理由はなく、被告の本社所在地を管轄する米国連邦裁判所ないしイリノイ州裁判所が本件訴訟について管轄を有することも明らかであり、しかも、専属的裁判管轄の合意は、本件雇用契約書に明確に記載され、原告はこれに署名しており、すでに認定したとおり合意が成立している。したがって、本件雇用契約に関する専属的裁判管轄の合意は原則として有効であるということができる。
 2 ただ、このような専属的裁判管轄の合意もはなはだしく不合理で公序法に違反するときは無効となる余地があることは原告の主張のとおりであり、以下この点について検討する。
 (一)まず、本件雇用契約において、本件雇用契約に関する訴訟の専属的裁判管轄として米国連邦裁判所ないしイリノイ州裁判所が指定されていることは、被告の営業の性質上、客室乗務員が米国以外の多数の外国人を含んでいることに鑑み、被告にとって、雇用関係に関する紛争を統一的に処理できるという利益をもたらすものではある。しかし、専属的裁判管轄の合意が被告に利益をもたらすものであったとしても、そのことから直ちに労働者に一方的な不利益を強いるものとはいえず、特に本件雇用契約においては、A組合協定との関係を踏まえて検討する必要がある。
 A組合協定は、被告の客室乗務員によって構成される労働組合であるA組合(ユニオンショップ制を採っている)との間で、鉄道労働法に基づいて団体交渉の結果締結された労働協約であり(前記一2)、それ自体労働者に一方的に不利益を課すものではなく、対等当事者間が交渉を通じて双方の利害を調整した結果であるということができる。それは、具体的には、被告とその客室乗務員との間に紛争が生じた場合、当該客室乗務員はA組合協定に基づく紛争処理手続による保護を受けることができる旨本件雇用契約に定められている(〈証拠略〉、六項)ように、労働者の権利保護にも配慮されている。しかし、一方、客室乗務員の雇用条件はA組合協定の拘束を受けることも明記されている(〈証拠略〉、三項及び五項)。これらのことからすると、本件雇用契約は、A組合協定に反することができず、その拘束を受けていると解せざるお(ママ)えない。そして、客室乗務員の雇用条件がA組合協定の拘束を受けること、A組合協定に紛争処理手続が規定され、客室乗務員がその保護を受けられることと関連して、専属的裁判管轄の合意及び準拠法の合意もA組合協定が前提としているものであったこと(〈証拠略〉)からすると、本件雇用契約に専属的裁判管轄の合意を規定することは、A組合協定を踏まえた結果であって、すなわち、労働者に一方的に不利益を強いる、あるいは被告の利益のみを図るものではないということができる。