全 情 報

ID番号 07552
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 キャスコ事件
争点
事案概要  債権回収等の業務に従事し主任の職位にあった三名の労働者Xらが、会社の賃金規定によって主任は時間外手当の支給の対象外とされていた(なお会社は一般職以外には時間外労働を支給しないという労使慣行の存在も主張した)が、Xらは室長、班長の指揮監督下で室内業務及び訪問回収業務に従事し、出退勤についても、出・退社記録(以前はタイムカード)によって管理され、一般職位の部下もいなかったことから、労働基準法四一条二号にいう管理監督者に該当するとはいえず、更に職能手当や職位手当等は割増賃金部分が明確に区分されておらず時間外賃金の定額支払がなされたとはいえないとして、時間外割増賃金及びそれと同額の付加金の支払を請求し、割増賃金の算定基礎額から職能手当等を控除できるかについても争われたケースで、Xらは労務管理に関し経営者と一体的な立場にある者で、出退社について制限を受けないものとはいえないとし、労働基準法四一条二号にいう管理監督者に該当しないとして、出退社記録に基づいて算定した時間外労働時間につき割増賃金及び付加金の支払請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法41条2号
労働基準法37条4項
体系項目 労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 監視・断続労働
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
裁判年月日 2000年4月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 533 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例787号30頁/労経速報1737号30頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-監視・断続労働〕
 原告X本人尋問の結果によれば、原告らの職位である主任は一般職位の上位にあるものではあるが、原告らが属する大阪管理室においては、原告らは、室長、班長の指揮監督下にあり、原告らの下に一般職位の部下がいるわけでもなく、その出退勤は、平成八年一〇月まではタイムカードにより、その後は出・退社記録によって管理され、債務者の自宅等を訪問して債権回収を行う訪問回収業務についても、室長、班長の指揮監督下におこなっていたものと認められ、労務管理に関し経営者と一体的な立場にある者で、出社退社について厳格な制限を受けない者とは、到底いえない。してみれば、原告らは、労働基準法四一条二号にいう監督若しくは管理の地位にある者に該当するとはいえないから、原告らについて時間外手当支給の対象外とすることはできない。
 被告は、一般職位者以外には時間外賃金を支給しないという労使慣行があった旨主張するが、仮に、右労使慣行が認められるとしても、労働基準法三七条に反する慣行には効力を認めることはできない。
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 時間外賃金を定額で支払うこと自体は、割増賃金部分が他の部分と明確に区分されており、その額が労働基準法所定の割増賃金額を超える限り違法でないといえる。しかしながら、被告における職能手当は、一般職位にある者にも支給される手当であって、これに時間外割増賃金を含むか否かについては疑問があるうえ、仮にこれを含むとしても、割増賃金部分と他の部分とが明確に区分されているとはいえず、また、職位手当についても、その役職の重要度とランク評価により支給されることとなっているから、これが時間外割増賃金の定額払いの趣旨で支給される賃金とはいいにくいが、仮にこれを含むとしても、割増賃金部分と他の部分とが明確に区分されているとはいえず、結局、職能手当、職位手当の支給により時間外割増賃金が支払われているとはいうことができない。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 時間外賃金算定の単価について、賃金規定運用細則は、基本給、職能手当、調整手当の合計を一六二で除したものを時間あたりの賃金と規定するところ、被告は、右計算式は、一般職位にある者についてのものであり、職能手当が考慮されているが、原告ら主任の職位にある者の職能手当には時間外労働に対する定額払い部分を含むのであるから、その算定基礎額からこれを控除すべきであると主張し、また、職位手当も控除されるべきであると主張する。しかしながら、職能手当、職位手当をもって時間外割増賃金の支払がされているといえないことは前述のとおりであるし、割増賃金算定の基礎額については、これから控除されるものは、労働基準法三七条四項、同法施行規則二一条が列挙するところで、これは制限列挙と解すべきであるから、右職能手当及び職位手当をこれから控除することはできないというべきで、右被告の主張は採用できないものである。