全 情 報

ID番号 07554
事件名 地位確認請求事件
いわゆる事件名 マルマン事件
争点
事案概要  時計、エレクトロニクス商品等の販売を業とする会社Yに入社後、営業職に就き、支店長、部長等を歴任してきた従業員Xが、バブル経済崩壊後の業績不振から、不採算部門の撤退等の経費削減、組織改革等を行い、更に人員削減計画に基づき新規雇用の中止、希望退職の募集等を実施し、更に退職勧奨を行っていたYから、上司による特別考課表では低ランクに評価されていること(五段階中四段階目)、加えて協調性に欠けることを理由に退職勧奨の対象者とされたが、これを拒否したところ、営業部から本社総務部付への配転命令がなされ、Xを配置するために一か月もかけて設置された市場情報室にフィールドマネージャーという肩書きを与えられて、健康食品の消費者動向調査等の業務遂行が命じられたが、その一年後には、業績評価が平均以下等であることを理由に資格等級が降格され(三級から四級へ)、その後、市場調査室を継続することができないこと、Xの能力等からして他部署への配属が不可能であること等を理由に、再び退職勧奨されたが、これを拒否したため、業務命令違反等を理由に就業規則の規定に基づいて普通解雇の意思表示がなされたこと(最終的に退職勧奨者のなかで解雇となったのはXのみ)から、(1)労働契約上の地位の確認、(2)将来分も含めた未払賃金の支払を請求したケースで、(1)については、人員削減の必要性の程度、解雇回避努力等の諸事情を総合判断すれば、Xに対する整理解雇は、未だ、社会通念上合理的な理由があるということはできず、解雇権の濫用として無効であり、整理解雇以外の普通解雇としても、これを社会通念上合理的とする事情はないから、解雇権の濫用で無効であるとして、請求が認容され、(2)については、配転命令は有効であるが、降格処分については根拠、合理性の点から無効であるとして、降格処分以前の賃金額を基礎とした未払賃金の支払請求が認容された(将来分については不適法却下)事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
労働契約(民事) / 人事権 / 降格
裁判年月日 2000年5月8日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 2533 
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例787号18頁
審級関係
評釈論文 中村和夫・静岡大学法政研究6巻1号205~219頁2001年8月
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 いわゆる整理解雇については、これが労働者の責に帰すべき事由がない経営上の理由により、特定の労働者を解雇するものであることからすれば、人員削減の必要性がない場合、使用者が解雇回避努力を尽くさない場合、被解雇者の人選に合理性がない場合、さらには労働者との協議を尽くさない場合の解雇については、社会通念上合理的な理由がなく解雇権の濫用として無効になるとするのが相当である。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 以上に鑑みるに、被告において、平成八年初めころには、大幅な人員削減を行う必要があったことは認められるが、その人員は、平成九年には、被告全体としては、予定の人員規模を一〇名程度上回るまで減少し、大阪支店においても、平成九年二月には、予定人員を二名上回る一七名であったものの、そのうち五名の異動、退職予定者がおり、販売市場の維持のため二名を移籍しなければならない状況であった。削減予定人員を超えているのは販売員の数であるが、A会社から営業要員として二名受け入れざるをえない状況であったことからすると、人員削減に未達成の部分はあるとしても、その必要性は相当程度減少していたということができる。市場情報室の要員については、その廃止によって不要となることは明らかであるが、廃止時に、その担当が原告であったというだけで、削減の対象者が原告に定まるものでもない。市場情報室の廃止は、同年四月に決定されていたところ、A会社からの営業要員受入れは、これと時期を同じくするものであり、原告の成績は決して優良とはいえず、また、就業態度も他の部署からの応援要請を断るなど良好ではなかったことは窺われるが、営業成績自体は、被告の経営姿勢に沿わない部分があるとしても、平均的なレベルであったし(〈人証略〉)、原告を右営業要員とすることが困難であったという事情は認められない。
 また、原告は、平成九年の自己申告書において、現勤務地以外の勤務は不可とするものの、過去には千葉、名古屋等大阪以外の勤務地で勤務したこともあり、被告において配転に従業員の承諾が要件となっているものでもなく、また、現実に他の地域への配転を提案して拒絶されたという事実もない。さらに、営業の以外の職種についてもこれを希望していたことからすると、原告の配置については、関連会社への出向をも含めて、検討の余地はあったということができる。
 以上のとおり、人員削減の必要性が小さくなっており、他に、配転等の解雇回避措置を採りうる状況のもとでは、原告ただ一人を、整理解雇として指名解雇しなければならなかったというのは疑問である。退職勧奨の対象者の内で、これを拒否したのが、原告だけであるとしても、他の退職勧奨者との公平を害するとまでの事情もない。
 これらの人員削減の必要性の程度、解雇回避の努力等の諸事情を総合して判断すると、原告に対する本件整理解雇は、未だ、社会通念上合理的な理由があるということはできず、解雇権の濫用として無効であるといわざるを得ない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 本件配転命令が、原告が退職勧奨を拒否したことから、原告を配置するために新たに市場情報室を設置して行われたことは前述のとおりである。そして、配転命令後、市場情報室設置まで一ヶ月半を要し、その後、具体的な業務指示までさらに二ヶ月を要したこと、市場情報室の態勢も構成員は原告一人で、十分な成果を得るにははなはだ不十分なものであったことが認められるが(〈証拠略〉、原告本人)、資格等級に変化はなく、手当を除く賃金にも変化はないのであって、これを無効とするまでの事情は認められない。
〔労働契約-人事権-降格〕
 本件降格処分は、役職を解くたぐいの降格ではなく、職能部分の賃金の減額をも伴うものであるが、右賃金の額は雇用契約の重要な部分であるから、従業員の同意を得るか、あるいは少なくとも就業規則上にその要件について明示すべきである。しかし、本件降格処分においては、原告がこれを承諾した事実はないし、就業規則に懲戒処分としての降格の規定はあるものの、原告に対する降格通知書(〈証拠略〉)をみても、その根拠規定は明らかでない。結局、本件降格処分の根拠及びその合理性については、未だ立証が尽くされているとは認められない。してみれば、本件降格処分の効力はこれを認めることができないというべきである。