全 情 報

ID番号 07557
事件名 退職支援金等請求事件
いわゆる事件名 大和銀行(退職支援金)事件
争点
事案概要  銀行Yの信託財産運用部で勤務していたXが、Yでは人員削減等による業務の円滑な遂行・発展を図るために、転職や独立を希望する行員への支援策である早期退職優遇制度の第三回通達(支援金(割増退職金等)、対象者、期間等が記載)が全店に配布されていたところ、上司に退職の意向を告げ、その一か月後に同制度の利用申込書を提出したが、本制度には、Yにとって有為な人材の流失を防止する観点から、対象者の転職予定あるいは銀行業務の諸事情等を勘案して利用承諾を決定する旨の規定があったことから、これに基づいて、Xは信託財産運用部のスペシャリストとして期待していた人物であるとして、本制度の適用が承諾されず、右制度の適用なしに退職するに至ったことから(承諾前であれば申し込みの撤回することも可能であった)、本制度の通達は本制度の利用の申込みでXの利用申し込みは承諾である、また承諾要件は公序良俗に違反する、適用を認めないことは信義則違反に当たる等として右制度による割増退職金等の支払、又はYは承諾義務が存在するにもかかわらずこれを拒否し、右割増退職金等相当額を不当利得したと主張して、その返還を請求したケースで、本制度の通達は申込みの誘因にすぎず、また本制度の適用について承諾を要件とした目的等は不合理ではなく、承諾が要件となっても承諾前の申込みの撤回が可能であることから従前の雇用条件の維持が可能であり、不利益には当たらず公序良俗に該当しないこと等から、Xの主張はいずれも採用できないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 早期退職優遇制度
裁判年月日 2000年5月12日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 2494 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例785号31頁/労経速報1747号18頁
審級関係
評釈論文 佐藤敬二・民商法雑誌123巻4・5号324~332頁2001年2月/道幸哲也・法律時報73巻10号104~107頁2001年9月
判決理由 〔賃金-退職金-早期退職優遇制度〕
 本制度の利用について被告の承諾を要件とした趣旨が、退職により被告の業務の円滑な遂行に支障がでるような人材の流出という事態を回避しようというものであって、それ自体不合理な目的とはいえない。そして、承諾が要件となっても、被告行員にとっては、不承諾の場合には、従前の退職金を受領して退職するか、雇用契約を継続するかという選択は可能であり、また、承諾となる前であれば、申し込みを撤回することも可能であって、いずれにしても従前の雇用条件の維持は可能であることから行員に著しい不利益を課すものとはいえない。したがって、本制度について承諾という要件を課すことが公序良俗に反するものとはいえない。
 また、本制度は、その制度趣旨の実現のために、それぞれの利用申出者について制度趣旨に照らし個々に判断する必要があり、一般的な制度ではないから、特段の理由がないかぎり承諾すべき義務があるものともいえない。
 原告は、規定や通達に記載されていない、被告の裁量を許す承諾という要件を課すことは許されないと主張するが、前述のとおり、本制度は制度趣旨からすれば個別判断が避けられないものであり、またそもそも当初の雇用条件にさらに条件を付加するものであるから、被告の裁量を許すところの条件である承諾を要件とすることも許されるべきである。また原告は、一旦退職の意思表示をした以上、忠誠心がないということで昇進の道も閉ざされることになり、事実上雇用契約継続が困難となる不利益があると主張するが、前記認定のとおり本制度の利用を申し出て、これを撤回し、後に昇格した者もいることからすれば、原告の右主張はたやすく是首できない。〔中略〕
〔賃金-退職金-早期退職優遇制度〕
 原告に対し退職強要がなされたと客観的に認めるに足りる証拠はない。また原告に対しては、本制度の利用について不承諾の予定を告げて慰留することはなされなかったことは認められるものの、三名の上司からの退職の意向確認にも原告が退職の意向を変えなかったという経緯から、被告の人事部が本制度の利用の不承諾の予定を告げても原告に翻意させる可能性がないと判断したこともやむをえない面があり、被告の人事部において、原告に対し、不承諾の予定を告げて慰留しなかったことをもって信義則に反するとまではいえない。原告は本制度が利用できないことが判明していれば退職の申し出をしなかったとも供述するが、原告が、本制度の不承諾通知後に改めて退職届を出していること(〈証拠略〉)などに照らしたやすく信用しえない。そしてそのほかに、原告につき、本制度の適用を認めないことが信義則に反するとまでの事情も認められない。