全 情 報

ID番号 07572
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 シンガポールデベロップメント銀行(本訴)事件
争点
事案概要  シンガポール共和国に本店を置く銀行Yの大阪支店で外国為替業務を担当してきた従業員で労働組合Aの組合員Xら二名が、本店からの指令によりその収支状況の現状を踏まえ業績改善の見通しのない大阪支店の閉鎖が発表され、組合Aとの団体交渉において、後日希望退職を含む提案をすること、東京支店への転勤はないこと等が告げられ、その後、大阪支店職員全員に対して、自己都合退職ではない退職一時金の支払及び基本給・職務手当の六か月分の追加退職金の支払、転職斡旋サービスの提供等を条件とする希望退職が要請され、Xら及び組合AとYとの間で数度の団体交渉が行なわれた際には、通常退職金を五割増しとし、更に追加退職金を六か月上乗せする等の提案がなされたが、Xらは東京支店への配転等を要求して希望退職に応じなかったため解雇されたことから、右解雇は解雇権の濫用により無効であるとして、労働契約上の地位確認及び賃金の支払、慰謝料の請求をしたケースで、本件解雇については、人員整理の必要性が認められ、東京支店へ転勤させることに合理性がないことから、解雇回避努力を欠いたということもできず、転勤ができないのであれば大阪支店の従業員が解雇の対象となることはやむを得ないことであり、交渉の経緯をみてもYの対応に妥当でない点があったとまでは認められないとして、整理解雇の要件を充足し、解雇権の濫用は認められないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
裁判年月日 2000年6月23日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 12411 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例786号16頁/労経速報1752号15頁
審級関係
評釈論文 三柴丈典・民商法雑誌124巻2号97~124頁2001年5月
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
 解雇は、雇用契約の解約であり、労働者の権利義務に重大な影響を及ぼすものであるから、社会通念に反する解雇が権利の濫用として許されないのはいうまでもないところである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 本件解雇は、被告の大阪支店閉鎖に伴うものであるところ、支店を閉鎖するかどうかという判断は企業主体たる使用者がその経営責任において行うところであるが、だからといって、その支店の従業員を直ちにすべて解雇できるということにはならない。営業の縮小などに伴う人員整理の必要から行われる解雇は、使用者の経営上の理由のみに基づいて行われるもので、その結果、労働者に、何の帰責事由もないのに、重大な生活上の影響を及ぼすものであるから、解雇の必要がなくされることは許されないし、その必要がある場合でも、これに先立ち解雇回避の努力をすべき義務がある。人員整理の必要から行われる、いわゆる整理解雇が有効であるためには、第一に、人員整理が必要であること、第二に、解雇回避の努力がされたこと、第三に、被解雇者の選定が合理的であること、第四に、解雇の手続が妥当であることの四要件が要求されており、当裁判所もいわゆる整理解雇については、右四要件該当の有無、程度を総合的に判断してその効力を判断すべきものと思量する。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 被告は、平成一一年一月七日、在日支店の現状を踏まえ、大会社の多くが資金需要に対処するために東京に事務所を構えていること、東京への貿易取引が集中していること、大阪支店の営業費用の増加が見込まれることなどから、今後の収支改善の見通しがなく、大阪に支店を置く必要性がないと判断して、大阪支店の閉鎖を決定した。
 右事実に鑑みるに、被告在日支店の業績不振は明らかであるが、我国では、いわゆるバブル崩壊後不況が長引き、金融機関の破綻もあり、関西では、その経済基盤の弱体化が指摘されていること、また、アジア諸国においても経済危機があったことは公知であって、これらから企業の資金需要が落ち込んでいることは容易に推認でき、大阪支店の閉鎖は、その収支状況の現状を踏まえ、業績改善の見通しがないことから行われたもので、これを不当なものとする理由はない。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 被告において、大阪支店の閉鎖により、その従業員の人数分が余剰人員となったということができるから、人員整理の必要性が生じたことはこれを認めることができる。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 支店を閉鎖したからといってその支店の従業員を直ちにすべて解雇できるものでないことは前述のとおりである。被告においては、その従業員を各支店において独自に雇用し、雇用した従業員については、就業場所が雇用した支店に限定されていると認められるものの、支店で雇用したといっても雇用契約は被告と交わされたものであるし、就業場所の限定は、労働者にとって同意なく転勤させられないという利益を与えるものではあるが、使用者に転勤させない利益を与えるものではないから、右事実があるからといって、人員整理の対象者が閉鎖される支店の従業員に自動的に決まるものではない。
 閉鎖される支店の従業員にとって解雇回避の可能性があるかどうかは、閉鎖がやむを得ない以上、当該支店以外における勤務の可能性があるかどうかということであるから、被告大阪支店閉鎖に伴う人員整理においては、大阪支店以外の部署への転勤の可能性が検討されることになるが、出向等は問題とならず、海外への転勤の実現可能性がない本件では、結局のところ、解雇回避が可能かどうかは、東京支店への転勤が可能かどうかということに尽きる。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 右のとおり、被告が東京支店において希望退職の募集をしなかったことは不当とはいえないので、東京支店に欠員がない以上、原告らを東京支店へ転勤させるには、東京支店の従業員を解雇するよりほかない。しかし、原告らを東京支店で勤務させるには、転勤に伴う費用負担が生じるばかりでなく、東京支店でその業務に習熟した従業員を辞めさせたうえで、業務内容によっては習熟していない原告らを担当させることになるのであって合理性がない。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 これらを総合考慮すれば、被告が解雇回避努力を欠いたということはできないし、転勤ができないのであれば、大阪支店の従業員が解雇の対象となることはやむを得ないところである。
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 以上によれば、東京転勤については、団体交渉において、被告がこれを拒否する理由の説明としては、終始、東京支店において原告らを配置するポジションがないというものであったが、交渉の経緯をみても、被告の対応に妥当でない点があったとまでは認められない。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 以上を総合すれば、本件解雇は、整理解雇の要件を充たすものということができ、解雇権を濫用したとまで認めることができない。