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ID番号 07576
事件名 各時間外割増賃金請求控訴事件
いわゆる事件名 日本コンベンションサービス(割増賃金請求)事件
争点
事案概要  国際会議等の企画・運営等を主たる業務とする会社Yを既に退職している内勤及び外勤も伴う元従業員でXら一六名(そのうち六名は参事、係長、係長補佐等のマネージャー職として、役職手当を受けていた)が、Yでは従来、従業員の時間外労働に対し、時間計算による時間外手当を支給していたが、従業員間の公平確保及び人件費の抑制のため、時間外手当に代えて、定額の勤務手当を支払う措置が採用され、厳密なタイムカードによる勤務時間管理は継続されていたところ、Yでの仕事の増大により時間外労働が常態化したため、定額の勤務手当では労働基準法違反の虞があると考え、労働時間数に応じた時間外手当の支給制度が実施されることになったが、Xらの在職中には時間外手当の支給が行われていなかったことから、タイムカードの記載(係長補佐以上の役職者についてはタイムカードによる打刻をしなくてもよいという扱いが認められていたことから、これらの者はメモやスケジュール等)に基づいて算定した時間外労働に対する割増賃金(法定外時間外労働については平成五年改正前の労働基準法三七条一項に基づき、法定内時間外労働については就業規則等に基づいて)の支払及び法定外時間外労働につき付加金の支払を請求したケースの控訴審で、原審はXの請求を一部認容していたが、(1)Yが時効の援用が信義則に反し権利の濫用に当たるとはいえないとして、割増賃金が時効により一部消滅しているとし、(2)タイムカートで把握される労働時間は給与規定上の労働時間とみなされるべきであるとし、(3)マネージャー職にあった六名については、労働基準法四一条二号の管理監督者に該当せず、割増賃金の支払対象者であるとしたうえで、時間外労働がなされたことが確実であるのにタイムカードの記載がない場合については、Xら主張の時間外労働時間の二分の一について労働したものと認定して、消滅時効にかからない時間外労働につき割増賃金請求及び付加金請求についてXの控訴が一部認容され、Yの控訴が棄却された事例。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法32条2項
労働基準法114条
労働基準法89条1項2号
労働基準法93条
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / タイムカードと始終業時刻
雑則(民事) / 附加金
就業規則(民事) / 就業規則と労働契約
裁判年月日 2000年6月30日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ネ) 3740 
平成8年 (ネ) 3741 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例792号103頁
審級関係 一審/06891/大阪地/平 8.12.25/平成3年(ワ)3586号
評釈論文 豊川義明・季刊労働者の権利239号62~64頁2001年4月
判決理由 〔就業規則-就業規則と労働契約〕
 (三) 就業規則は労働契約の具体的な内容をなすものであり、本来、使用者が独自に作成(変更)すべきものである。しかし、その内容に一定の規制をしなければ、労働基準法が定める基準に達しない労働契約が締結されたり、労働条件の一方的な切り下げが行われる危険があるので、労働基準法は、就業規則を労働基準監督署長に提出するよう命じて、その内容を規制するとともに労働者の過半数を代表する者の意見を聞くよう要請しているものと解される。
 (四) 右のとおり、就業規則は使用者である第一審被告が、本来、単独で制定できるものであり、第一審被告は労働基準監督署長に対して、本件就業規則及び本件給与規程を有効なものとして提出したことが明らかであるから、就業規則として有効なものと考えられる。そもそも、労働基準法が労働基準監督署長に就業規則の届け出を罰則を設けてまで義務づけている趣旨から考えても、第一審被告において、本件就業規則及び本件給与規程を提出し、これを下回る内容の労働契約を行わない旨誓約しながら、本件給与規程が実体を反映せずに無効であるとか、労働者への周知を欠いて無効であるなどと主張することは許されない。
 5 したがって、本件就業規則及び本件給与規程は法的効力を有するものと解されるので、第一審原告らは本件給与規程に基づき、第一審被告に割増賃金の請求をなすことができる。
〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 第一審原告らの本訴請求は、タイムカードで把握される労働時間を前提に、所定時間を超えて八時間までの部分を法定内超勤、これを超える部分を法定外超勤と各扱い、本件給与規定及び労働基準法三七条に基づき割増賃金の請求をしている。しかし、右(一)のとおり、本件給与規定の内容は、労働基準法三七条と同内容であり、また、本件において、労働基準法上の労働時間のみを厳密に区別することは困難である。そうすると、本訴請求の趣旨は、法定内超勤部分については本件給与規定に基づき、これを超える部分は労働基準法三七条に基づき請求する趣旨であると解され、本件給与規程の内容が労働基準法三七条と同様のものである以上、両者を区別する実益は全くない。したがって、以下では、所定時間を超えて八時間までの部分と、それを超える部分の区別として、法定内時間外労働と法定外時間外労働の言葉を使用するが、後記のとおり、必ずしも、労働基準法でいう法定内外の時間外労働と同義ではない。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 労働基準法三七条一項が割増賃金の支払いを命じているのは、それが労働基準法上の労働時間【労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間(最判平成一二年三月九日)】に該当することを前提として、法定労働時間を超える部分、深夜、休日労働に該当する部分についてである。
 (三) しかし、労働基準法の定めは最低限度の労働条件として、これを下回る労働契約を締結してはならないという定めに過ぎず、また、右労働基準法上の労働時間を把握することは必ずしも容易ではないから、使用者において、これとは異なる労働時間の把握方法を定め、これを基準に割増賃金を算定することも、これによって算定される金額が労働基準法が定めるものを上回るものであればむしろ法の趣旨に適い望ましいことである。
〔労働時間-労働時間の概念-タイムカードと始終業時刻〕
 前記のとおり、労働時間を掌握する責任は使用者側にあり、一旦、その労働時間性を承認して、タイムカードへの打刻等を認め、訂正等を求めていない以上、仮に、その取り扱いが不合理で、従前の扱いでは業務に含まれないというのであれば、その点の立証は第一審被告がなすべきである。しかし、右立証がなされているとは到底いえない。また、一部形式的に不備なものが認められるとしても、これにより直ちにタイムカードの信用性が損なわれるとはいえない。
 (五) 以上のとおり、タイムカードで把握される労働時間は、本件給与規程上の労働時間と見なされるべきである。
 そして、タイムカードに始業時刻あるいは終業時刻の記載がない場合、平日については労働していないことの反証がなされていない以上、所定時間労働したものと推認すべきであるが、休日については時間外労働時間を認定できないこと等は、原判決六三頁八行目から六五頁三行目に記載されたとおりである。
〔雑則-附加金〕
 1 労働基準法一一四条の付加金の支払いは、使用者が労働基準法三七条の規定に違反していることを前提としており、付加金の対象となるのは労働基準法上の労働時間に限られる。
 2 ところが、タイムカードで把握される労働時間は、前記のとおり、必ずしも労働基準法上の労働時間とは限られない。そして、本件の場合、これを厳密に区別することは不可能である。
 3 しかし、原判決七六頁四行目から七七頁九行目(理由五2(三))記載のとおりの事実が認められるから、確実に労働基準法上の労働時間を充たしていると認められる部分には付加金を認めるべきである。そして、移動時間等を考慮しても、労働基準法上の労働時間に対応する部分が、法定外時間外労働(八時間を超える部分、休日、深夜労働という意味。)の半分を下回るなどとは到底考えられない。したがって、右部分について付加金を認めるべきである。
 4 なお、付加金の対象となるのは、第一審原告らが第一審被告に対し、裁判上の請求をした時点から二年以内のものであり、第一審被告に訴状が送達され裁判上の請求が行われたのは平成三年六月五日であるので、右時点から支払期が二年内の、一九八九年五月一六日分以降分のみが付加金の対象となる。
 なお、付加金の対象となるべき労働時間は推計によるから、一時間に満たない部分は切り捨てる。