全 情 報

ID番号 07579
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 アール・エフ・ラジオ日本(定年制)事件
争点
事案概要  昭和二三年開局のラジオ放送会社Yでアナウンサー業務に従事してきた従業員組合の組合員であったXら二名が、平成四年ないし五年に満五十五歳に達したところ、就業規則の規定に基づいて定年退職扱いにされたが、平成六年には、定年年齢が五七歳に、同七年には六〇歳に引き上げられたことから、右五五歳定年制は憲法二七条一項、一四条一項、公序良俗に違反する等、違法、無効なものであるとして、(1)Xらが六〇歳に達するまでの雇用契約上の地位の確認、(2)六〇歳到達時までの賃金等の支払、不法行為責任に基づく損害賠償請求したケースで、(1)については、既に六〇歳に達しているXらの本件確認請求は、法律上の利益を認めることはできないとし、(2)については、Xらが満五五歳に到達した時点では、六〇歳定年制が既に放送業界を含む産業社会で主流となっていて、五五歳定年制の改正を行っていなかったことが高年齢者雇用安定法上の努力義務を怠ったものであるとの指摘を免れないとしても、公序良俗等に反する違法・無効、また憲法の規定の趣旨に反するものであるといった評価を与えることは困難である等として、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
日本国憲法14条1項
日本国憲法27条
民法90条
体系項目 退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 2000年7月13日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 10003 
裁判結果 一部却下、一部棄却(確定)
出典 労働判例790号15頁/労経速報1760号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由  原告らは既に六〇歳に達しているので、右確認請求は過去の法律関係の確認を求めるものにほかならないが、過去の法律関係であっても、確認の利益がある限り、確認の対象適格を認めるべきものと解される。しかし、本件において、原告らは、本件五五歳定年制が違法・無効であることを理由に、六〇歳まで雇用関係が有効に存在したことを前提として、端的に六〇歳に達するまでの賃金及び一時金の支払請求をすれば足りるのであるから、その主張のような確認請求をしなければならない法律上の利益(確認の利益)を認めることはできないものというべきである。
〔退職-定年・再雇用〕
 原告は、本件五五歳定年制をもって、労働者の解雇事由を定めたものである旨主張する。しかし、被告の就業規則は、六六条において、社員(従業員)は「(1) 死亡したとき」、「(2) 自己の都合により退職を願い出て受理されたとき」及び「(3) 定年に達したとき」退職する旨、退職事由を定め、六七条一項において九項目の解雇事由を定め、六八条において解雇制限を定め、六九条において定年年齢及び定年退職の場合の退職予告につき定めており、以上のような被告の就業規則の規定相互の関係及び規定内容を見ると、雇用関係終了事由としての定年退職と解雇とは、就業規則上一義的明確に区別されていることを認めることができる。これに加え、証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、被告において、従前から、従業員が就業規則所定の定年に到達したときには一律かつ当然に退職するものとして取り扱われてきたことが認められることを併せ考えると、本件五五歳定年制は、五五歳の到達により被告又は従業員のいずれからの特段の意思表示を要することもなく、当然に雇用契約が終了することを内容とする雇用関係の終了事由を定めたものと解することができる。〔中略〕
〔退職-定年・再雇用〕
 以上の事情を総合考慮すれば、原告らの五五歳到達時である平成四年及び五年の時点においては、六〇歳定年制が既に放送業界を含む産業社会で主流となっていて、被告が本件五五歳定年制の改正を行っていなかったことは高年齢者雇用安定法上の努力義務を怠ったものであるとの指摘を免れないとしても、本件五五成定年制(ママ)をとらえて、公序良俗に反する違法・無効なものであるとか、原告主張の憲法の各規定の趣旨に反するものであるとかの評価を与えることは、いまだ困難であるといわざるを得ない。
 なお、原告らは本件五五歳定年制が公序良俗に反する違法・無効なものといえるかどうかは、原告らの五五歳到達時のみでなく、原告らの五六歳から五九歳到達時までの各時点において、それぞれ検討すべきである旨主張するが、本件は、原告らが五五歳に達した時点において本件五五歳定年制の適用により雇用関係が終了したとされたものにつき、本件五五歳定年制が違法・無効であったから雇用関係終了の効果が生じないとして争われているのであるから、原告らが五五歳に達した時点における本件五五歳定年制の適法性の有無のみが問題となることは明らかである。〔中略〕
〔退職-定年・再雇用〕
 以上の次第であるから、本件五五歳定年制が違法・無効である旨の原告らの主張は理由がない。