全 情 報

ID番号 07588
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 尼崎築港事件
争点
事案概要  土地建物の賃貸、学習塾等を営む会社Yに雇用され学習塾の管理業務に従事していたXが、Xの部下からXの件で苦情が本社に寄せられたことから、事態の収拾を図ることを理由に本社総務部課長として配置されたが、本社でもトラブルを引き起こす等して居場所がなくなり、Xの希望により関西支社へ配置されたが、その後、同支社管轄の主な業務がA社に委託されることに伴い、A社への三年間の出向が命令されたが、Y代表取締役の交替に伴う組織見直しにより、A社に業務委託費用を支払いXを出向させるのは不合理であるとして、関西支社の廃止及びXの出向解除が決定されたものの、Xを本社及び支社に配置すれば過員が生じ、Xの経歴(過去に譴責処分と厳重注意を受けている)や適正等から観て、本社に復帰させると人間関係が悪化し業務に支障を来すとの判断により、就業規則の規定(やむを得ない業務上の都合による場合には解雇する旨)に基づいて関西支社廃止による事業縮小を理由に解雇通知がなされたことから、右解雇が違法な整理解雇であるとして、労働契約上の地位確認及び未払賃金の支払を請求したケースで、本件解雇は、Xが客観的合理的な基準を定立してそれに基づいて解雇対象者として選定されたわけではなく、整理解雇に該当しないとしたうえで、本社や支社等における業務の状況や人員配置の状況に照らし関西支社の廃止及びXの出向解除によって一名分の余剰人員が発生したが、Xのこれまでの行為等に照らしXを他に配転することができないから、余剰人員となったXを解雇によって削減するために本件解雇に及んだことは、客観的に合理的であるとし、既に決定されている三年の出向期間経過前に本件解雇に及んだ点も、就業規則の規定によって要求されている本件解雇の「目的と解雇という手段の間の均衡」を失するものではなく、解雇権の濫用として無効とすることはできないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 已ムコトヲ得サル事由(民法628条)
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
裁判年月日 2000年7月31日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 9395 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例797号49頁
審級関係
評釈論文 橋本陽子・ジュリスト1208号272~275頁2001年9月15日/中内哲・労働法律旬報1519号40~43頁2002年1月10日
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 本件では、本件解雇がいわゆる整理解雇に当たるかどうかが争われているが、整理解雇とは、一般に、解雇の対象とされた労働者には解雇に値するような行為や落ち度は何もないことを前提に、専ら企業の経済的事情に基づいて余剰人員を削減する必要性が存し、かつ、客観的に合理的な基準に基づいて多数の労働者の中から解雇の対象者を選定してする解雇をいうものと解されるところ、右(一)によれば、本件解雇は、関西支社の廃止及び出向の解除によって余剰人員となった原告を解雇したというものであり、関西支社の廃止及び出向の解除は企業経営上の観点から行われたものであるが、被告が原告を解雇の対象者と選定した理由は、原告が廃止の対象となった関西支社に勤務していたということであり、客観的に合理的な基準を定立してそれに基づいて解雇の対象者を選定した結果、原告が解雇の対象者として選ばれたというわけではないのであるから、本件解雇が整理解雇に当たらないことは明らかであり、仮に本件解雇が整理解雇としてされたものであるとすれば、その余の点について判断するまでもなく、本件解雇は解雇権の濫用として無効であるということになる。
〔解雇-解雇事由-已ムコトヲ得サル事由(民法628条)〕
 企業の経営規模の縮小等によって余剰人員が生じたというような場合が、本件就業規則18条1項5号にいう「やむを得ない事業上(ママ)の都合によるとき」に該当することは明らかであり、その場合に同号に基づいて解雇権が発生しているといえるためには、第1に、解雇が「事業上(ママ)の都合による」こと、すなわち、解雇という手段によって余剰人員を削減する必要性が存在しなければならず、第2に、解雇という手段に出ることが「やむを得ない」こと、すなわち、目的と手段ないし結果との間に均衡を失していないことが必要であると解される。
 これに対し、企業の経営規模の縮小等によって余剰人員が生じたというような場合以外の場合、例えば、労働者の行為によって企業秩序や企業の信用等が害されたため、これを回復するためには問題の行為をした労働者を解雇し、企業から排除する必要があるというような労働者側の事情による場合が、「やむを得ない業務上(ママ)の都合によるとき」に含まれるかどうかについては、労働者の行為によって生じた企業秩序の混乱や信用の毀損等を回復するために当該労働者を解雇する必要がある場合も、事業上(ママ)の必要がある場合があるといえなくもないから、「やむを得ない事業上(ママ)の都合」という文言は、それ自体としては、労働者側の事情をも含み得る概念であるというべきであること、本件就業規則18条1項5号は、単に、「やむを得ない業務上(ママ)の都合によるとき」と規定されているのみで、同号は、企業の経営規模の縮小等によって余剰人員が生じたというような場合のみを指すものであると解すべき文言上の手がかりはないこと、本件就業規則18条1項5号以外の各号との対比から、本件就業規則18条1項5号は、専ら企業側の事情に基づく解雇に限定した趣旨であると解することはできないこと、以上の点に照らせば、本件就業規則18条1項5号は労働者側の事情に基づく解雇を許容する趣旨であると解するのが相当である。
 そうすると、企業の経営規模の縮小等の目的で当該企業の一部門を閉鎖したことによって余剰人員が生じたが、当該部門に配置されていた労働者のこれまでの行為等に照らせば、その労働者を他の部門に配転することによってその労働者を新たに配置した他の部門に企業秩序の混乱や当該企業の信用の毀損等をもたらすおそれが大であり、企業経営上の観点からこれを看過することができないという場合に、客観的に合理的な基準を定立することなく、直ちにその労働者を解雇の対象者として選定して解雇するというのは、要するに、企業側の事情と労働者側の事情とが相まって当該労働者を解雇するということを意味することにほかならないが、右に説示したことに照らせば、そのような解雇も本件就業規則18条1項5号に基づく解雇として許容されるものと解される。
〔解雇-解雇事由-已ムコトヲ得サル事由(民法628条)〕
 本件就業規則18条1項5号が「やむを得ない事業上(ママ)の都合によるとき」と規定していることからすれば、本件解雇においても、解雇という手段に出ることが「やむを得ない」こと、すなわち、目的と手段ないし結果との間に均衡を失していないことが必要であると解される。
 本件において、関西支社の廃止と原告の出向の解除によって生じた余剰人員1名を解雇という方法によって削減することは、平成9年から平成10年にかけての被告の経営状況及び人員の配置状況からすれば、将来に備えて経営体力の弱体化を避けるという観点から執られた措置として、企業経営上の観点からその必要性を肯定することができることは、前記認定、説示のとおりであるが、そもそも将来経営危機に陥る危険を避けるために今から経営体質の改善、強化を図っておくことは、当該企業が生き延びることを目的としているのであるから、解雇に代わる次善の策を容易に想定し得るものでない限り、右の目的と解雇という手段の間の均衡を失しているとはいえないと解される。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-已ムコトヲ得サル事由(民法628条)〕
 他に本件解雇が解雇権の濫用に当たることを認めるに足りる事実も証拠もない。
 (六) 以上によれば、本件解雇が解雇権の濫用として無効であるということはできない。