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ID番号 07597
事件名 配転命令無効確認等請求事件
いわゆる事件名 フジシール(配転・降格)事件
争点
事案概要  管理職として開発業務に従事していた労働者X(五四歳)が、会社からの退職勧奨を拒否した後、(1)工場への配転命令及び(2)降格処分を受け、その後、(3)別の工場への配転命令が出されたため、(1)(2)(3)命令以前の雇用契約上の地位にあることの確認並びに減額された賃金(役職手当)等の支払を請求したケースで、(1)については、Xを単純作業の肉体労働へ従事させるべき業務上の必要性があったものとはいえず、退職勧奨拒否に対する嫌がらせであり、(2)についても業務上の必要性はないとして、(1)の配転命令は権利濫用により無効であるとし、(3)についても、権利濫用により無効とされ、(2)については、就業規則に降格処分の要件が規定されていないことを理由に無効であるとし、(1)(2)(3)の請求が一部認容された事例(役職手当の差額請求については部長職の解職に理由があるとして棄却)。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
労働契約(民事) / 人事権 / 降格
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 2000年8月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 4732 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例793号13頁
審級関係
評釈論文 越川僚子・季刊労働法202号156~164頁2003年3月/城塚健之・労働法律旬報1530号34~37頁2002年6月25日/新谷眞人・労働法律旬報1521号34~37頁2002年2月10日
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 被告の就業規則上、業務上必要があるときは異動を命じ得る旨の定めがあり(〈証拠略〉)、また、雇用契約上、原告の職種に限定はなく、更に原告は勤務地の限定のない全国社員を選択していた者である(当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨)ところ、これらに照らせば、被告には、原告の個別的同意がなくとも、配転を命じる権限がある。しかしながら、当該配転について、業務上の必要性が存しない場合や、業務上の必要性が存したとしても他の不当な動機・目的をもってなされたものである等の特段の事情が存する場合には、当該配転命令は権利の濫用として無効となるとするのが相当である。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 以上を総合考慮するならば、証拠上筑波工場の生産量の増大、これに伴う設備投資の増加は認められるものの(〈証拠・人証略〉)、当時筑波工場でのインク担当業務に原告を従事させなければならない業務上の必要性があったものとはいえず、退職勧奨を拒否した直後に従前の開発業務とは全く異なった業務に従事させていること、原告が担当した業務がその経験や経歴とは関連のない単純労働であったこと等に照らせば、本件配転命令1は、退職勧奨拒否に対する嫌がらせとして発令されたものというべきで権利の濫用として無効であるといわざるをえない。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 そもそも、先の本件配転命令1の効力が訴訟で争われており、その有効・無効が確定しない間に、「暫定的」な配置をすることは、労働者の労働条件を著しく不安定にするものであるうえ、原告が奈良工場で従事している業務は、工場の製造ラインから排出されるゴミ(梱包材料のゴミ、不良品、製品をとった残りかす)をゴミ置き場から回収し、手押し台車に入れ、工場全(ママ)の屋外に設置されているゴミ回収車の荷台に入れる作業等であって、従前嘱託社員が行っていたものであり(〈証拠・人証略〉)、原告をかかる職場に配置する業務上の必要性はないものといわざるをえない。
 従って、本件配転命令2も権利の濫用として無効である。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 本件降格処分は、懲戒処分として行なわれたものである。そして、被告の就業規則上、「降格」処分については、懲戒の種類としての記載があることは認められるものの、いかなる場合に降格処分となるかという要件が定められていない。懲戒処分は、会社の秩序維持のため、使用者が、労働者に対し、配置転換や昇級・昇格の低査定などとは別個に科す特別の不利益である以上、懲戒の事由が予め就業規則等で明記され労働契約の内容となっていることが必要であると解すべきである。したがって、本件降格処分は規定に基づかないものであるから無効である。
 被告は、降格処分は、減給・譴責より重く、懲戒解雇より軽い処分であり、右双方ともに就業規則上その要件が定められていることから、規定がなくとも、その中間的な場合を容易に想定しうるから降格処分をなしうると主張するが、そもそも、中間的なものということだけでは、要件が明確であるとはいえず、かかる解釈は労働者に予期し得ない不利益を課すおそれがあり、労働者の立場を著しく不安定にするものであって採用しえない。
〔労働契約-人事権-降格〕
 また、被告は、人事権行使の裁量の範囲内として本件降格処分を行いうると主張する。しかし被告の就業規則上、副参与職は、「職能」資格であり(〈証拠略〉)、これは、労働者が、一定期間勤続し、経験、技能を積み重ねたことにより得たものであり、本来引下げられることが予定されたものでなく、これを引下げるには、就業規則等にその変更の要件が定められていることが必要である。被告では、職能資格の変更についても就業規則上規定があるが、本件降格処分では、右定められた要件、手続が遵守されておらず、右被告の主張は採用しえない。