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ID番号 07599
事件名 処分無効確認請求控訴事件
いわゆる事件名 JR東日本(高崎車掌区・年休)事件
争点
事案概要  鉄道会社Yの車掌として勤務するXが、海水浴を目的として四日間の有給休暇の取得を申請したが、Yでは夏期の繁忙期により、年休申請者に対する年休付与は困難であったものの、予備員の充当や、休日出勤の要請、列車の行路の変更等の措置がなされた結果、その内の二日間についてはXを含む一部の者(一日目三一名のうち一〇名、二日目二五名のうち六名)が年休取得する案がまとめられていたが、Yの労組主催行事の実行委員長Aに同日に年休取得させなければならなくなったため、前記年休取得予定者の取得理由及び消化率等が検討された結果、Xは二日間について年休不承認の意思表示がなされたため、年休付与を再度申し入れるとともに、右両日に年休が取得できないのであれば、他日を指定するように求めたが、了承を得られず、その後、面会を経て、右両日に出勤するように業務命令が発せられたが、両日に出勤しなかったため、Xの行為が就業規則の規定に該当することを理由に戒告処分を受けたことから、Yが本件時季変更権の行使において(1)他日指定を行っていないこと、(2)事業の正常な運営を妨げる事由がないこと等から権利濫用に当たるとして、本件戒告処分が無効であることの確認を請求したケースの控訴審で、一審の結論と同様、(1)については、使用者は時季変更権行使に当たり他日指定すべき義務はないとし、他日指定に時季変更権の行使の適法性を左右する意味があると解するのは相当でないとし、(2)については、組み替えの工夫や休日出勤者の要請等によりようやく予定された列車の運行に支障が生じることを回避しつつ年休付与が可能な体制を整えた等の事実によれば一日目に一〇名、二日目に六名を超える年休付与申請者に年休を付与することは、Yの事業運営上の正当な運営を妨げるものであったと認められるとし、Yの時期変更権の行使は権利濫用に当たらないとして、Xの控訴が棄却された事例。
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 2000年8月31日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ネ) 2200 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働判例795号28頁
審級関係 一審/07292/前橋地高崎支/平11. 3.11/平成4年(ワ)400号
評釈論文
判決理由 〔年休-時季変更権〕
 当裁判所も、使用者は時季変更権を行使するに当たって他日指定をすべき義務はないと判断する。〔中略〕
〔年休-時季変更権〕
 本件において、控訴人は被控訴人に対し他日指定することを求めているが、そうであるからといって、被控訴人がこれに応じて他日指定しなければ時季変更権の行使が不適法であるということはできない。蓋し、労働基準法にも被控訴人の就業規則(〈証拠略〉)にもこれに関する規定は設けられていないうえ、仮に被控訴人が他日指定したとしても、労働基準法39条の趣旨に照らせば、使用者に一方的な休暇の指定権が与えられたと解することはできないのであるから、労働者においては右他日に時季指定するか否かの自由を有するし、仮に労働者が被控訴人の他日指定に応じて右他日に時季指定したとしても、後になって、その他日について事業の正常な運営を妨げる事由が実際に発生したならば、使用者としても改めて時季変更権を行使できると解さざるをえないのであるから、他日指定は、使用者としては、その時季にはおそらく事業の正常な運営を妨げる事由がないであろうと考え、その時季について労働者の年休請求があれば、時季変更権を行使しない見込である旨を通知するものにすぎないと解せられるのであり、したがってこのような通知自体に時季変更権行使の適法性を左右する意味があると解するのは相当ではないというべきであるからである。〔中略〕
 平成3年7月23日に10名、24日に6名を超える年休付与申請者に年休を付与することは、被控訴人の業務の正常な運営を妨げるものであったと認められる。〔中略〕
 なるほど、被控訴人の担当者は休日予定者の内一部の者に23日または24日に出勤することを打診したのみであるし、特別改札業務は、その業務内容に照らすと、運転業務などと違って、どうしてもこれを確保しなければならないものであったということはできない。しかしながら、使用者である被控訴人としては、このような場合、代替勤務者を確保して勤務割を変更すべく通常の配慮をすることが求められているのであって、可能な限りの方法を講じる配慮をすることまで求められるものではない(最高裁判所平成元年7月4日判決・民集43巻7号767頁参照)。休日出勤は就業規則66条(3)に基づくものであり、強制することができないのはもちろん、強制と受け取られるような方法をとることもできないことから、被控訴人が、誰にでも声をかけるというわけにもいかず、また車掌の勤務は原則として徹夜勤務の行路(2日にわたって勤務する行路)になっているので、23日、24日と連続で休みになっている者の方が手配しやすいが、逆に公休日や特休日の前後に年休を付与されていて連続して休日をとる予定であると考えられる者には声をかけにくく、また休日出勤をすることにより4日を超える勤務となる者にも声をかけにくいと考えたというのはやむを得ないところであって、被控訴人としては、相当数の休日予定者についてこのような検討をした後、協力してもらえる可能性の高そうな者についてだけ実際に打診をしたものと認められる(〈証拠・人証略〉)から、これをもって通常なすべき配慮に欠けるということはできない。また、特別改札行路は、ダイヤ改正時に各組合(鉄道産業労働組合、東労組、国労)との団体交渉の結果を生かして組まれるものであって(〈証拠・人証略〉)、その後右行路は平成3年10月に廃止されてはいるが、その際、控訴人の所属する国労はその重要性を主張してその廃止に強く反対していたこと(〈証拠・人証略〉)からも明らかなように、年休付与の確保のために安易にこれを通常の乗車勤務に振り替えられない性質を有していたというべきであるから、これを圧縮しなかったことをもって、被控訴人が年休を付与するためになすべき通常の配慮をしなかったものということはできない。