全 情 報

ID番号 07600
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 三晃運輸事件
争点
事案概要  大型トレーラーの運転に従事している労働者X1及びX2(X2は既に退職)が、会社Yでは団体交渉を経て賃金体系の改定(完全固定給制度から固定給プラス歩合給制及び残業手当の制度化)が実施されたところ、(1)右改定に伴って、歩合給が低額になるような違法な配車差別等を受けたとして賃金減少分相当額の損害賠償を請求し、また(2)X2は、就業規則の有給休暇の申請は書面で三日前になす旨の規定に従って、有給休暇申請の届けを取得日の三日前に会社のポストに投函したが、Yが右届出を見たのは取得日の前日であったことから、有給休暇の使用が認められず、賃金と皆勤手当が減額されたため、この有給休暇の使用拒否は実質的合理性を有しないとして、債務不履行ないし不法行為責任に基づき、減額された賃金相当額の損害賠償請求をしたケースで、(1)については、荷物の配車差別、中距離配車差別、運送量自体の差別、土曜・休日出勤の取扱い差別はいずれも認めらないとして請求が棄却され、(2)についても、ポストへの投函という不確実な方法で申請を行わなければならなかったやむをえざる事由はなく、人員確保の必要性から届出に関する就業規則の規定には合理性があり、前日に届出がなされたことは、実害が発生していなくても事業の正常な運営を妨げるものであったといえるとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 2000年9月1日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 3579 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1753号24頁
審級関係
評釈論文
判決理由  原告らは、同人らが組合に加入したことから、これを嫌った被告より共営埠頭のB、Cランクの荷物の運送、中距離運送、複数車両による運送の場合の運送量自体、土曜、休日出勤の取扱いについて違法な配車差別を受けたと主張するが、以下のとおり右原告らの主張は認められない。
 (一) まず、共営埠頭のB、Cランクの荷物の運送についてであるが、共営埠頭の荷物には厚板、コイル、丸棒等があり、そのうちの厚板について、荷物の単価にA、B、Cの三つのランクがあるが、このB、Cランクの運賃単価は、被告の共営埠頭以外の取引先の運賃単価よりも高い。【中略】
 そもそも、共営埠頭の荷物の中で厚板は五〇パーセント程度であり、そのうちでもB、Cランクの荷物が占める割合は一〇パーセント程度でしかない。またCランクの荷物の中には、長ものといって長さ一七メーター以上の厚板があるが、これを原告らのトレーラーで運ぶためには、そのための台が必要だった。そして厚板は、トレーラーに積み込むに際して、厚板が曲がらないようにする技術が必要であったことから、配達係は【中略】熟練の運転手に優先的に配達していた。さらに一山に積んである物件を上から順番に、指定されたトン数分共営埠頭の従業員が積み込んでいくため、配車の段階で、B、Cランクの荷物を特定のトレーラーに分けることはできない(証拠略)。
 以上の事実を考慮するならば、B、Cランクの荷物の運送に関し、原告らと他の従業員との間に差があったとしても、原告らに対し、違法な配車差別があったとまでは認められない。
 (二) 次に「中距離」の運送についてであるが、【中略】(人証略)を考慮すれば、「中距離」の配車について、原告らと他の運転手との間で差があったとしても、これをもって違法な差別があったとは認められない。
 (三) さらに複数車両による運送の場合の運送量自体の差別についても、【中略】複数のトレーラーで運送する場合、積み残しを恐れて一台目、二台目のトレーラーに多く積み込み、最後のトレーラーに可能積載量よりも少なく積み込むことがよくある。この場合、最後のトレーラーにあたるか否かは、それまでに別の仕事に従事していたか否かにもかかわり、何台目のトレーラーとなるかは偶然に左右されることは否めない。【中略】そして原告ら以外の運転手についても可能積載量よりも少ない荷物を運送することはあった(証拠略)ことをも考慮すれば、運送量自体で、被告が原告らを違法に差別していたとまでは認めることはできない。
 (四) 最後に土曜日、休日出勤の取扱いの差別については、【中略】組合立会の団交の場で、原告らは、被告に労基法の改正により土曜日は時間外扱いになる旨述べ、被告で経理、労務を担当している被告代表者の妻は、基本的に土曜日は原告らを働かせられないと理解したこと、その場での原告らの対応が、土曜日の出勤に意欲的なものではなかったこと、平成九年六月以降は、原告らに仕事があれば出てもらうということであったが、仕事自体が減少していたこと(証拠略)などを考慮すれば、土曜日出勤等の取扱いについて、原告らに対し、違法な差別があったとまでは認められない。【中略】
 以上検討したことに加え、被告の収益が大幅に減少していること(証拠略)をも考慮すれば、本件において、原告らに対し、原告らの組合加入を嫌ったことによる違法な配車差別がなされていたという事実は認められない。
〔年休-時季変更権〕
 被告の就業規則では、有給休暇の申請については、書面で三日前になすこととされていた(当事者間に争いのない事実)。原告X1は、平成一一年八月四日の有給休暇の申請の届けを同月一日に被告のポストに投函した。被告が右届出をみたのは、同月三日であった(人証略)。このため、被告は、原告X1の有給休暇の使用を認めず、賃金と皆勤手当を減額した(当事者間に争いのない事実)。
 右原告X1の有給休暇の取得に関し、原告X1に、証拠上有給休暇の届出をポストへの投函という不確実な方法で行わなければならなかったやむをえざる事由があったとは認められない。他方被告は少人数の会社であって、急に運転手が一名休むとなると運転手あるいは配車係りについての人員確保が必要となるから、届出を三日前までに書面でなすことを就業規則で定めることにも合理性があり、本件のように前日に届出がなされた場合には、人員確保が困難となるから(人証略)、たとえ実害が発生していなくとも事業の正常な運営を妨げるものであったといえ、被告が原告岩本の有給休暇の時季指定を承認しなかったことも適法である。