全 情 報

ID番号 07604
事件名 時間外手当請求上告事件
いわゆる事件名 北都銀行(旧羽後銀行)事件
争点
事案概要  銀行Yの少数組合である従組(従業員の三パーセント加入)の組合員Xら二九名が、Yでは、銀行法施行令(完全週休二日制)の改正に伴い、完全週休二日制を実施するために、平日に所定労働時間を一〇分、週初めの営業日と毎月二五日から月末までの繁忙期の営業日(年間九五日の特定日)については六〇分延長する旨の就業規則の変更につき、多数労組(従業員の約七三パーセント加入)の同意しか得られなかったため、従組の同意のないまま、新就業規則が適用されていたところ(これ以前に部分的に週休二日制を実施するために平日等の所定労働時間が延長される就業規則変更の提案がなされていたが、いずれも従組員からは同意が得られず、従組員には協定書が適用されていた)、右就業規則の変更は不利益で合理性のないものとして、これに同意していないXらには新就業規則の効力は及ばないとして、旧就業規則に基づいて計算した時間外手当から現実に支払われた時間外手当の差額の支払を請求したケースの上告審で、一審はXらの請求を棄却し、原審は、本件就業規則はXらを拘束する規範的な効力はないとしてXらの控訴を認容し、一審を取り消したが、最高裁(Yが上告)は、本件就業規則の変更による時間外手当の減少の不利益は全体的、実質的にみれば大きいとは言えないとし、会社の必要性からすれば、本件就業規則の変更は法的に受忍させることもやむを得ない程度の必要性のある合理的なものとして、原審を破棄して、一審を支持した事例。
参照法条 労働基準法89条1項1号
労働基準法93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 労働時間・休日
裁判年月日 2000年9月12日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (オ) 1710 
裁判結果 破棄自判、一部棄却(確定)
出典 労働判例788号23頁/労経速報1742号25頁
審級関係 控訴審/06949/仙台高秋田支/平 9. 5.28/平成4年(ネ)85号
評釈論文 虻川高範・労働法律旬報1492号17~20頁2000年11月25日/今仲清・税理43巻15号196~199頁2000年12月/山本吉人・労働判例788号6~16頁2000年11月1日/小西國友・季刊労働法195号34~53頁2001年3月/倉地康孝・季刊労働法195号10~33頁2001年3月/倉地康孝・労働法学研究会報51巻33号1~29頁2000年12月1日/大内伸哉・平成12年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1202〕228~230頁2001年6月/辻村昌昭・法律時報73巻7号143~147頁20
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間〕
 本件就業規則変更により、被上告人らにとっては、特定日以外の平日の所定労働時間が一〇分間、特定日の所定労働時間が六〇分間延長されることとなったのであるから、本件就業規則変更が、被上告人らの労働条件を不利益に変更する部分を含むことは、明らかである。また、労働時間が賃金と並んで重要な労働条件であることはいうまでもないところである。〔中略〕
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間〕
 まず、変更による実質的な不利益の程度について検討すると、特定日における六〇分間の労働時間の延長は、それだけをみればかなり大きな不利益と評し得るが、特定日以外の営業日における延長時間は一〇分間にすぎないものである。〔中略〕
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間〕
 被上告人らは、本件就業規則変更による時間外勤務手当の減少を重視すべきであると主張している。しかし、時間外勤務は、法定労働時間の範囲内において使用者が時間外勤務を命じた場合や、法定労働時間を超えるものについて労働基準法三六条一項に基づく協定が締結され、これにより使用者が時間外勤務を命じた場合などに行われるものであって、時間外勤務を命ずることについては使用者に裁量の余地があり、かつ、事務の機械化等が時間外勤務の必要性に影響を及ぼすことも想定することができるのである。右のことからすると、もし本件就業規則変更がされなかった場合に、右変更前の終業時刻から本件就業規則変更後の退勤時刻までの時間につき、法定内あるいは法定外の時間外勤務が当然に行われることになるとはいえず、これが行われることを前提とする被上告人らの主張には、合理的な根拠があるとはいい難い。
 他方、本件では、完全週休二日制の実施が本件就業規則変更に関連する労働条件の基本的な改善点であり、労働から完全に解放される休日の日数が連続した休日の増加という形態で増えることは、労働者にとって大きな利益であるということができる。
 右のとおり、年間の所定労働時間が減少して時間当たりの基本賃金額が増加し、しかも、連続した休日の日数が増加することからすれば、平日の労働時間の延長による不利益及びこれに伴いある程度は生ずるであろうことが予想される時間外勤務手当の減収を考慮しても、被上告人らが本件就業規則変更により被る実質的不利益は、全体的にみれば必ずしも大きいものではないというのが相当である。〔中略〕
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間〕
 変更の必要性について検討すると、本件では、金融機関における先行的な週休二日制導入に関する政府の強い方針と施行令の前記改正経過からすると、Y銀行にとって、完全週休二日制の実施は、早晩避けて通ることができないものであったというべきである。そして、週休二日制は、労働時間を大幅に短縮するものであるから、平日の労働時間を変更せずに土曜日をすべて休日にすれば、一般論として、提供される労働量の総量の減少が考えられ、また、営業活動の縮小やサービスの低下に伴う収益減、平日における時間外勤務の増加等が生ずることは当然である。そこで、経営上は、賃金コストを変更しない限り、右短縮分の一部を他の日の労働時間の延長によって埋め合わせ、土曜日を休日とすることによる影響を軽減するとの措置を執ることは通常考えられるところであり、特に既に労働時間が相対的に短いY銀行のような企業にとっては、その必要性が大きいものと考えられる。加えて、完全週休二日制の実施の際、ごく一部の銀行を除き、平日の所定労働時間の延長措置が執られているというのであるから、他の金融機関と同じ程度の競争力を維持するためにも、就業規則変更の必要性があるということができる。〔中略〕
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間〕
 以上によれば、本件就業規則変更により被上告人らに生ずる不利益は、これを全体的、実質的にみた場合に必ずしも大きいものということはできず、他方、羽後銀行としては、完全週休二日制の実施に伴い平日の労働時間を画一的に延長する必要性があり、変更後の内容も相当性があるということができるので、従組がこれに強く反対していることやY銀行における従組の立場等を勘案しても、本件就業規則変更は、右不利益を被上告人らに法的に受忍させることもやむを得ない程度の必要性のある合理的内容のものであると認めるのが相当である。
 したがって、本件就業規則変更は、被上告人らに対しても効力を生ずるものというべきである。