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ID番号 07624
事件名 差額賃金等請求控訴事件
いわゆる事件名 芝信用金庫事件
争点
事案概要  信用金庫Yで勤続二八年から四〇年である女性社員Xら一三名(一名は提訴後定年退職、三名は一審判決後定年退職)が、副参事(新人事制度では課長職)への昇格と課長への昇進についてはXらと同期同給与年齢の男性社員の間のみならず、男性社員と女性社員との間で著しい格差があり、男性社員は昇格試験制度の枠外で昇格を認める例外的措置がとられて副参事に昇格していたこと、女性は単純反復な職務に配置され、その結果、男女間で研修に差が生じ、管理職に必要な職務ローテーションが男性社員だけに実施されていたこと等から、女性であることのみを理由として昇格及び昇進その他の処遇において差別的取扱いを受けたとして、(1)同期同給与年齢の男性社員のうち最も遅く課長職に昇格・昇進した者と同時期に昇格・昇進したものとして、課長職の資格と職位にあることの確認及び差額賃金の支払(主位的請求)を、(2)女性であることを理由とする職務配置等の差別的処遇に対して不法行為に基づく損害賠償(予備的請求)を請求したケースの控訴審で、(1)については、請求を一部認容した原審が支持されて、Xらのうち既に退職した四名及び最も若年の一名を除く者について、労働契約の本質及び労働基準法一三条の規定の類推適用により課長職の資格を有することの確認請求及び差額賃金の支払請求、また退職した四名についても昇格を前提として退職金額と実際に支払を受けた金額との差額について請求についてXらの控訴が一部認容された事例。なお、(2)については、一審では請求が棄却されていたが、Yは使用する職員を介してXらに対し、故意若しくは過失により年功加味的運用について差別をしたものと認められることから、民法七一五条一項に基づく慰謝料等の請求について、Xらの控訴が一部認容された。
参照法条 労働基準法4条
労働基準法13条
労働基準法3条
民法709条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 男女別コ-ス制・配置・昇格等差別
労働契約(民事) / 労働契約の期間
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2000年12月22日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ネ) 5543 
平成8年 (ネ) 5785 
平成9年 (ネ) 2330 
裁判結果 一審判決変更、一部棄却、一部却下(上告)
出典 労働判例796号5頁
審級関係 一審/06879/東京地/平 8.11.27/昭和62年(ワ)8285号
評釈論文 坂本福子・労働法律旬報1498号6~11頁2001年2月25日/緒方桂子・民商法雑誌125巻1号103~112頁2001年10月/小俣勝治・労働判例804号5~14頁2001年7月15日/西谷敏、林弘子、米倉勉、橋本佳子、今野久子、坂本福子・労働法律旬報1549号6頁03年4月10日/西谷敏・法律時報73巻12号95~98頁2001年11月/赤松良子・ジュリスト1226号2~4頁2002年7月1日/中村涼子・ジュリスト1213号149~152頁2001年12月1日/渡辺章・労働判例百選<第7版>〔別冊ジュ
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-男女別コ-ス制・配置・昇格等差別〕
 一審被告は、男性職員に対しては、管理者となるために必修ともいうべき職務ローテーションを実施していたのに対し、女性職員に対しては、これの対象外としていたのであるから、男性職員と女性職員との間における差別的取扱いをしていたとの疑念を生じさせ、このことは、とりもなおさず、一審被告には女性職員を管理者に登用する意思がなかったことを推認させるものである。〔中略〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-男女別コ-ス制・配置・昇格等差別〕
 一審原告らの主張のうち、(1)基幹的業務からの排除(職務配置差別)については、一審被告においては、女性職員に基幹的業務ともいうべき得意先係や融資受付のような業務を殆ど担当させて来(ママ)なかったところ、融資受付及び得意先業務は常時顧客を相手にした業務であるから、顧客との関わりのなかで業務を遂行しなければならず、内勤業務とは異なった外勤業務としての特質及び高度の業務知識を兼ね備えていなければならないことや、女性職員の勤務期間・勤務場所、女性労働及び主婦としての役割分担等に関する考え方の時代的背景の下で考慮判断されるべき問題を含んでいるので、一審原告ら女性職員を融資受付及び得意先係に配置するか否かは、一審被告の高度な人事政策に属するものというべきであり、男性職員を右のような職務に配置しながら一審原告らをそのような職務に配置しなかったからといって、直ちに一審被告が女性であることを理由とした差別的職務配置をしてきたものとまで断ずることはできないこと、(2)研修差別については、男女雇用機会均等法施行前においては、新入職員に対する研修を男性職員と女性職員とに分けて実施しており、その内容も、男性職員のそれは一審被告の業務のほぼ全般に及んでいたのに対し、女性職員のそれは、配属される職務を反映して、比較的定型的、課長職に昇格しておらず、諸般の事情に照らしても、昇格を妨げるべき事情の認められない場合には、当該一審原告らについては、昇格試験において、男性職員が受けた人事考課に関する優遇を受けられないなどの差別を受けたため、そうでなければ昇格することができたと認められる時期に昇格することができなかったものと推認するのが相当であり(年功加味的運用差別)、一審原告らと同期同給与年齢の男性職員の実際の昇格状況、一審原告らにおける昇格を妨げるべき事情の有無等について、一審原告らごとに個別具体的に検討し、昇格の成否について判断を加えることになる。
〔労働契約-労働契約の期間〕
人事考課に代えて昇格試験制度が導入された昭和五三年一〇月以後は、原則として昇格試験に合格することが昇格するための必要な要件とされたところ、合格者については昇格により給与の増額が伴うため予算措置が当然必要となり、一審被告にとって恒常的に人件費の増大に繋がることや、業務の効率かつ適切な遂行のために求められる人員数とその配置、将来の経営見通し等とも密接に関連し、一審被告の経営基盤を大きく左右するものであるから、合否の基準すなわち合格点をどこに設定するかについては、右の諸事情を総合的に考慮してすべきものであり、昇格に関する判断については、一審被告の経営判断に基づく裁量を最大限に尊重しなければならないことはいうまでもない。
 しかし、一審被告が採用している職能資格制度においては、資格と職位とが峻別され、資格は職務能力とそれに対応した賃金の問題であるのに対して、昇進は職務能力とそれに応じた役職(職位)への配置の問題であり、給与面に関しては、後者は役職手当(責任加給)の有無に関連するのみであるのに対し、前者は本人給の問題であって性格を異にしている。特に、前述した一審被告における処遇、給与体系の下では、定例給与のうちの本給は、新人事政策が導入されるまでは、各年度ごとに各資格別に定められた「普通職員本人給表」によって支給される本人給と、昇格基準に基づいて取得した職能資格等級に対し支給される資格給とによって構成されており、また、新人事制度導入以降は、満五年の移行措置期間が存したものの、基本給と資格給とによって構成されているのであるから、資格と定例給与とは対応関係にあるということができる。資格付けの目的は、職位(役職)付与の基準としての性格をも有するものであるが、いかなる職員にいかなる給与額を支給するかという職能給与制の機能をも有しており、新旧人事制度のいずれにおいても、昇格するか否かは定例給与に直接影響を及ぼすものである。このように、昇格の有無は、賃金の多寡を直接左右するものであるから、職員について、女性であるが故に昇格について不利益に差別することは、女性であることを理由として、賃金について不利益な差別的取扱いを行っているという側面を有するとみることができる。〔中略〕
 一審被告においては、副参事の受験資格者である男子職員の一部に対しては、副参事昇格試験等における人事考課において優遇し、優遇を受けた男子職員が昇格試験導入前においては人事考課のみの評価により昇格し、昇格試験導入後はその試験に合格して副参事(新人事制度における課長職)に昇格を果たしているのであるから、女性職員である一審原告らに対しても同様な措置を講じられたことにより、一審原告らも同期同給与年齢の男性職員と同様な時期に副参事昇格試験に合格していると認められる事情にあるときには、一審原告らが副参事試験を受験しながら不合格となり、従前の主事資格に据え置かれるというその後の行為は、労働基準法一三条の規定に反し無効となり、当該一審原告らは、労働契約の本質及び労働基準法一三条の規定の類推適用により、副参事の地位に昇格したのと同一の法的効果を求める権利を有するものというべきである。
 (三) 前記に説示したとおりであるとすれば、差別された労働者は、将来における差額賃金や退職金額に関する紛争及び給付される年金額に関する問題について抜本的な解決を図るため昇格後の資格を有することの確認を求める訴えの利益があるものというべきである。〔中略〕
〔労働契約-労働契約の期間〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 一審被告の女子職員に対する人事考課における差別により、一審原告ら(ただし、この項においては、一審原告Xを除く。)は、本来昇格すべきである時期に昇格できなかったのであるから、昇格していたことを前提にして支給される本人給及び資格給と実際に支給を受けた賃金等の差額について、労働契約に基づき差額賃金(未払賃金)として、また、退職した一審原告らは、さらに昇格を前提とした退職金額と実際に支給を受けた金額との差額について、差額退職金としてそれぞれ請求することができる。