全 情 報

ID番号 07630
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 マナック事件
争点
事案概要  医薬品等の製造・販売を業とする株式会社Yに雇用され、業務課主任として勤務する労働者Xが、取締役の退任について、勤務中に経営陣を批判する発言等を同僚の前で大声でしたため、直属上司から叱責されたほか、会長からも注意を受けたが謝罪を拒否していたところ、勤務成績を理由に監督職である職能資格四級から一般職である三級に降格されるとともに、当該事件の翌年以降、約四年にわたり年一回の基本給支給額の決定における昇級査定が五段階中の最低ランクに位置付けられ、また当該事件が評定期間内に含まれている冬期の賞与については、賞与不支給事項(社内の秩序を乱す者及び上司に反抗し、又はその指示に従わない者)に該当することを理由に賞与査定されず代替措置として一ヶ月分の基本給相当額のみ支給されたのみで、それ以降の夏期・冬期賞与についても査定(一五段階)が低くなされたことから、当該降格処分の無効確認及び昇級差別による基本給の差額及び賞与減額分の支払を求めるとともに、当該降格処分の内容を提示されたことを理由に慰謝料請求したケースで、職能資格の決定、昇級査定等につきYの裁量権を広く認めたうえで、当該降格処分、昇級査定は違法ではないが、賞与の減額については労基法九一条に違反する部分につき違法性が認められるとして、請求が一部認容された(慰謝料請求については棄却)事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法3章
労働基準法91条
体系項目 労働契約(民事) / 人事権 / 降格
賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
懲戒・懲戒解雇 / 労基法91条の減給
裁判年月日 1998年12月9日
裁判所名 広島地福山支
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 164 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴、附帯控訴)
出典 労働判例811号37頁/労経速報1792号18頁
審級関係 控訴審/07760/広島高/平13. 5.23/平成11年(ネ)27号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-人事権-降格〕
 企業の行う人事考課は、その性質上広範な裁量に委ねられるから、査定方法が不合理であるとか、恣意的になされたものと認められない限り、適法なものというべきである。換言すると、右の例外的な場合(査定方法が不合理であるとか、恣意的になされたものと認められる場合)には不法行為を構成するものというべきである。〔中略〕
 (1) 平成3年以降平成7年4月1日の本件降格処分まで、原告は4級(監督職)に要求される能力(適切な責任の取り方、応用的な判断力、部下に対する指導力)が不十分であると評価された。
 (2) そうすると、原告は4年間にわたり右能力が不十分であったのであるから、「勤務成績が著しく悪いとき」に当たるものとして、被告から本件降格処分を受けてもやむを得ないものというべきである。
 したがって、本件降格処分は、その査定方法が不合理であるとか、恣意的になされたものとは認められず、違法とはいえない。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
 前述のとおり企業の行う人事考課は、その性質上広範な裁量に委ねられるから、査定方法が不合理であるとか、恣意的になされたものと認められない限り、適法なものというべきである。換言すると、右の例外的な場合(査定方法が不合理であるとか、恣意的になされたものと認められる場合)には不法行為を構成するものというべきであるところ、以上の事実によると、本件各昇給決定には合理的な理由があり、その査定方法が不合理であるとか、恣意的になされたものとは到底認められない。
 よって、本件各昇給決定は違法ではない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-労基法91条の減給〕
 以上の事実によると、被告は、A会長事件が平成6年7月期賞与の査定対象期間後に起きているにもかかわらず、しかも従前の原告への査定はCランクであったにもかかわらず、右同期分は最低のE-ランクの最低評価に基づいた支給をし、かつ、その後は賞与を支給しない旨の決定をし、ただ恩恵的に原告に対し、賞与の一部相当分を各支給したが、右各支給はA会長事件及びその後の原告の謝罪しない態度に起因していたのであるから、右各支給は原告がA会長事件を起こしたこと及びその後の原告の謝罪しないことへの制裁としてなされたものというべきである。
 (二) ところで、労働基準法第91条は「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。」と規定し、同法第11条は「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と規定するところ、右各支給(賞与)は右第91条所定の「賃金」に含まれると解する。
 よって、被告の賞与支給規程第5条に定める(3)「社内の秩序を乱す者」及び(4)「上司に反抗し、又はその指示に従わない者」に該当する者に対しては賞与を支給しなくてもよい旨の規定は、それが労働基準法第91条所定の制裁規定に反する限度で無効であるというべきである。
 (三) そうすると、被告は原告に対して賞与を全く支給しないとすることはできず、一部支給しないとすることができるとしても、労働基準法第91条「(前略)総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。」所定の10分の1の限度で減額できるに止まり、その限度を超えて減額した部分は原告の受給権に対する違法な侵害として不法行為を構成するものといわざるを得ない(なお、平成6年7月期の賞与については、その評価はE-ランクで、その支給率は0.93であるから、労働基準法第91条に違反しない。)。