全 情 報

ID番号 07642
事件名 未払給料等請求事件
いわゆる事件名 高知県職員労組事件
争点
事案概要  高知県職員労組(県職労)が、平成七年三月一二日(日)午後七時三〇分頃、Y(高知県)に対して翌日の一三日、始業時の午前八時三〇分から同五九分までの間の「二九分ストライキ」として職場集会を実施する旨の通告に基づいて行った集会に関連して、集会参加を目的としてXらが行った、平成七年三月一三日午前八時三〇分から一時間の年休時季指定について、Yが年休権の成立を否定し賃金カットを行ったことにつき、Xらがカット分の賃金を請求したケースで、年休時季指定を認めなかった原審と同様に、労働者が年次有給休暇の時季指定をした当時には当該時季指定日に当該労働者所属の事業場で争議行為が実施される蓋然性があり、当該労働者が当該事業場を含む全庁的規模の争議行為に参加する目的で当該時季指定をした場合には、たとえ本件集会がXらの就労すべき事業場で実施されなかったとしても、当該時季指定は年休権の行使とはいえないとして年休権の成立が否定された事例。
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季指定権 / 指定の時期
年休(民事) / 時季変更権
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 一斉休暇闘争・スト参加
裁判年月日 2000年1月28日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (行コ) 13 
裁判結果 棄却(上告・上告受理申立)
出典 高裁民集53巻1号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔年休-時季指定権-指定の時期〕
 後示説示の争議行為の場合を除き、労働者が、その有する年休日数の範囲内で、具体的な年休の始期と終期を特定して年休時季指定をしたときは、客観的に労基法三九条四項但書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしない限り、右指定によって年休が成立し、当該労働者の当該指定期間における就労義務が消滅する。
 (三) しかし、労働者が、予め年休時季指定をすることなく不就労をした場合には、当該不就労の時点において、当該不就労に関する法律関係は確定的に発生したものというべきであり、労働者が、事後的に、当該不就労期間を年休として時季指定することは許されない。
 (四) もっとも、使用者が、当該不就労期間について、当該不就労の事実にもとづく法的効果を除去することに同意するのであれば、その同意により年休が成立したのと結果的に同様の事態が生ずる。
 また、労働者が事前に年休時季指定をすることができなかったのが、病気、災害等のやむを得ない事由にもとづく場合には、当該事由が存在しなくなり、労働者が年休時季指定をすることができるような状況になった後速やかに年休時季指定をするのであれば、これに対し、使用者は、右年休時季指定に沿った措置をとるよう配慮する必要が生ずるものといえる。
 (五) しかし、本件において、控訴人Xが事前に年休時季指定をすることができなかったのが、病気、災害等のやむを得ない事由にもとづくものであるとはいえない。そうであるから、A所長が、控訴人Xによる事後の年休時季指定を拒否し、不就労期間につき欠勤扱いをしたことに何ら不都合なところはない。〔中略〕
〔年休-年休の自由利用(利用目的)-一斉休暇闘争・スト参加〕
 労働者が当該労働者所属の労働組合による争議行為等に参加し、当該労働者の所属する事業場の正常な業務の運営を阻害する目的をもって、年休の時季指定をして職場を離脱する行為は、労基法の適用される事業場において業務を運営するための正常な勤務体制が存在することを前提としてその枠内で休暇を認めるという年休制度の趣旨に反するものであり、本来の年休権の行使とはいえないから、当該労働者による時季指定日に年休は成立しないものというべきである(最高裁平成三年一一月一九日判決民集四五巻八号一二三六頁参照)。
 (三) そして、当該労働者による年休時季指定日に、当該労働者所属の事業場において、当該労働者所属の労働組合による争議行為等が予定されていた場合には、前示(二)の説示のとおり、当該労働者による時季指定日に年休は成立しないものと解すべきである。その理由は次のとおりである。
 (1) 年休制度は、労基法の適用される事業場において業務を運営するための正常な勤務体制が存在することを前提としてその枠内で休暇を認めるという趣旨のものである。そうであるから、労働者が争議行為等に参加しその所属する事業場の正常な業務の運営を阻害する目的をもって、年休の時季指定をした場合には、本来の年休権の行使とはいえない。
 (2) 当該労働者の年休時季指定日に、当該労働者所属の事業場において、争議行為等当該事業場の正常な業務の運営を阻害する行為が予定されているのであれば、使用者において、時季変更権行使をするための要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かを判断できるような状況にはない。そうであるから、このような場合には、使用者による時季変更権の行使をまつまでもなく、労働者による年休権の行使を否定すべきである。
 (四) なお、当該労働者所属の労働組合による当該労働者所属の事業場における争議行為等が予定されていたかどうかは、当該年休時季指定が行われた時点における蓋然性によって判断すべきである。そうであるから、結果的に当該労働者所属の事業場において右争議行為等が実施されなかったとしても、年休権の行使を否定すべきである。〔中略〕
〔年休-時季変更権〕
 控訴人ら三名が本件年休の時季指定をした時期は、本件集会が全庁的争議行為として実施され、右実施場所には控訴人ら三名所属の事業場が含まれる蓋然性があった。なお、右蓋然性は右時季指定が行われた平成七年三月一〇日以降も、本件集会直前まで存在していたものといえる。
 すなわち、本件集会に関しては、控訴人ら三名が本件年休の時季指定をした平成七年三月一〇日以降本件集会直前まで、被控訴人の全事業所において「業務を運営するための正常な勤務体制が」が存在しなかったものといえる。
 また、控訴人ら三名は、前示全庁的規模の争議行為に参加する目的で本件年休の時季指定をしたものであり、右指定をした当時、客観的にみて控訴人ら三名所属の事業場においても争議行為が実施され、同事業場の業務の正常な運営が阻害されることに関する蓋然性があった。
 ちなみに、控訴人ら三名が本件年休時季指定をした当時、客観的にみて控訴人ら三名所属の事業場において争議行為が実施され、同事業場の業務の正常な運営が阻害されることに関する蓋然性があった以上、被控訴人において、時季変更権行使をするための要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かを判断できるような状況にはなかったといえる。
 そうすると、本件年休の時季指定に関しては、控訴人ら三名の所属する事業場においては結果的に争議行為が行われなかったという客観的事態においても、使用者の時季変更権の行使によって事業の正常な運営の確保が可能であるという年休制度が成り立っている前提である「業務を運営するための正常な勤務体制」が欠けていたものといえる。
 そうであるから、控訴人ら三名の本件年休時季指定は本来の年休権の行使ということができない。
 したがって、控訴人ら三名の本件年休時季指定によって年休は成立しないものというべきである。