全 情 報

ID番号 07654
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 東京都土木建築健康保険組合事件
争点
事案概要  東京都所在の土木建築業を営む事業主がその従業員を被保険者として共同設立した健康保険組合Y(職員二五名程度の公法人)の業務部業務課に配属されていたXが、Yでは保険料額及び被保険者数の推移による影響によって毎年損失を累積していたため、保険料の引上げや賞与基準見直し等の収支状況の改善が図られていたものの、なお損失が見込まれる状況にあったため、勤務実績や勤務状況が芳しくなかったことを理由に、就業規則の規定(法令又は定員の改廃若しくは予算の減少により廃職又は過員を生じたとき)に基づき解雇されたことから、右解雇は整理解雇要件を具備しておらず、また不当労働行為にも該当し無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位の仮の確認及び賃金の仮払を申立てたケースで、本件解雇は整理解雇としての側面を中心として、その有効性を判断するのが相当であるとしても職員としての適格性の欠如という労働者側の事情による解雇という側面が加わっていることにより、整理解雇の有効性の判断の際に考慮すべき四点もおのずと修正されるというべきであるとしたうえで、本件解雇には客観的に合理的な理由があり、Xを解雇することが著しく不合理で社会通念上相当であるということはできず、また不当労働行為に該当する事実も認められないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2000年6月1日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 平成11年 (ヨ) 21196 
裁判結果 却下
出典 労経速報1758号14頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 本件解雇は、もともと職員としての適格性を欠く債権者の処遇に苦慮していた債務者が、事務局合理化の必要が生じたことから、債権者の解雇に踏み切ったというものであるということができる。
 そして、債務者が直接的には就業規則三〇条一項一号(労働能力や適格性の欠如)ではなく、同項二号(過員を生じたとき)に該当することを根拠としている以上、事務局合理化の必要という使用者側の事情による解雇(整理解雇)としての側面を中心にして、その有効性を判断するのが相当であるとしても、職員としての適格性の欠如という労働者側の事情による解雇という側面が加わっていることにより、整理解雇の有効性の判断の際に考慮すべき、〔1〕人員整理の必要性、〔2〕解雇回避努力、〔3〕被解雇者選定の合理性、〔4〕解雇手続の相当性の四点も自ずから修正されるというべきである。
 (二) まず、前記1(二)及び(三)によれば、人員整理の必要性が認められる。損失が莫大で職員一人を解雇しただけでは解決しないということは、人員整理の必要性を否定する理由とはならない。
 (三) 債務者の経営改善努力、解雇回避努力は、前記1(二)のとおりであり、債務者が営利を目的としない公法人であり、したがって経営改善努力にも制約があることも考慮すると、債務者が解雇回避努力を尽くしていないとはいえない。なお、債務者は希望退職者を募っていないが、職員二五名程度の法人で、職員としての適格性において明らかに劣る者がいる場合に、希望退職者を募らなければならないと解するのは相当でない。
 (四) 債権者の勤務実績・勤務状況等は前記1(一)のとおりであり、債務者が勤務成績を基準に債権者を被解雇者に選定したことには合理性があるというべきである。〔中略〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 (六) 以上に検討したところによれば、債務者が債権者を解雇したことには客観的に合理的な理由があり、債権者を解雇することが著しく不合理で社会通念上不相当であるということはできないから、解雇権の濫用として無効であるということはできない。