全 情 報

ID番号 07673
事件名 公務外認定処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 地公災基金岡山県支部長(倉敷市役所職員)事件
争点
事案概要  市役所の下水道局下水建設部の係長として勤務していたA(当時四二歳・高血圧症、高脂血症、高尿酸血症等)が急性心筋梗塞により死亡したため、Aの妻XがAの死亡を公務上のものであるとして地方公務員災害補償金岡山県支部長Yに対し、地方公務員災害補償法に基づき公務災害の認定を請求したところ、Yは公務外認定処分を行ったため、右処分の取消しを請求したケースの控訴審(Y控訴)で、原審の結論と同様に、Xが死亡前までの五年八カ月間に従事した公務内容は、その性格自体、技術職職員としての専門知識経験を要求される難易度の高い職務であるとともに、後半の二年八ヶ月間においては、係長として組織管理全般及び対外的折衝調整事務が負荷されたことにより公務の困難性がさらに増加し、その中で長期間にわたる深夜休日に及ぶ現地説明会、補償交渉、苦情処理等を含む日常的な超過勤務状態はAの心身に対して強い負担を課し続けてきたとみられるところ、Xは心筋梗塞の基礎疾患のほか、心筋梗塞の促進因子である喫煙習慣を有していたが、長期間の過重な公務が精神的、身体的にかなりの負荷となり、慢性的な疲労、ストレスを蓄積させていたのであり、そのほか諸種の事情を考慮すれば、Aの心筋梗塞は死亡前五年八カ月の公務による過重な精神的、身体的負荷が基礎疾患の自然経過を超えて心筋梗塞の前駆症状である冠状動脈硬化症を増悪させた結果発症したものと認めるのが相当であって、公務と死亡との間の相当因果関係を肯定できるとして、Yの控訴が棄却された事例。
参照法条 地方公務員災害補償法45条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 2000年10月26日
裁判所名 広島高岡山支
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (行コ) 2 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例811号58頁
審級関係 一審/07632/岡山地/平10.12.22/平成5年(行ウ)7号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 Aが従事した公務の内容、状況及びその当時における同人の心身の常況等は、次のとおり訂正するほか、原判決44頁6行目から64頁末行までに記載のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 地方公務員災害補償法にいう「職員が公務上死亡した場合」とは、職員が公務に基づく傷病に起因して死亡した場合をいい、公務と死亡との間に相当因果関係があることが必要である。
 そして、地方公務員災害補償制度が、公務に内在又は通常随伴する危険が現実化した場合に、これによって職員に生じた損失を補償するものであることに鑑みると、職員が基礎疾患を有しており、これが一因となって疾病が発生して死亡した場合には、公務による過重な精神的、肉体的負荷によって基礎疾患が自然経過を超えて増悪し、死亡の結果を招いたと認められるとき、換言すれば、公務が基礎疾患を自然経過を超えて増悪させ、死亡の結果を招くに足りる程度の過重負荷となっていたと認められるときに、公務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したものとして相当因果関係を認めるのが相当である。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 Aは心筋梗塞の基礎疾患とされている高血圧症、高脂血症、高尿酸血症等の基礎疾患を有していたほか、心筋梗塞の促進因子である喫煙習慣を有していたが、長期間の過重な公務が精神的、身体的にかなりの負荷となり、慢性的な疲労、ストレスを蓄積させていたのであり、前記認定のAの基礎疾患の内容、症状の推移、Aが従事していた公務の内容、遂行状況に加えて、心筋梗塞が心臓の冠状動脈硬化によって発症するものとされていること、疲労やストレスが動脈硬化や動脈硬化の促進因子である高血圧の原因の一つとなり得るものとされていることを考慮すると、Aの心筋梗塞は、死亡前5年8か月間の公務による過重な精神的、身体的負荷が基礎疾患の自然経過を超えて心筋梗塞の前駆症状である冠状動脈硬化症を増悪させた結果発症したものと認めるのが相当であって、公務と死亡との間の相当因果関係を肯定することができる。〔中略〕
 Aは高血圧症、高脂血症等の心筋梗塞の基礎疾患を有しており、Aの解剖結果によれば、全身の動脈硬化症が進行しており、すべての冠状動脈に動脈粥状硬化症に基づく内腔狭窄があり、特に、左冠状動脈前下行枝起部には多数の石灰化が認められ、死亡当時、Aの冠状動脈の硬化は重篤な状態に至っていた。
 しかし、問題は、冠状動脈の硬化がこのような重篤な状態に陥ったことがAの基礎疾患の自然経過によるものであるのか、それとも基礎疾患の自然経過を超えて増悪し、公務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したものと評価できるかということであり、その判断は、Aの基礎疾患とAの従事した公務の内容を総合的に考慮して行うほかないのであり、Aが従事していた公務の内容、性質等に照らすと、右基礎疾患の存在も前記判断を左右しない。〔中略〕
 以上のとおりであり、Aの死亡は公務に起因するものというべきであるから、これを公務外の災害とした本件処分は違法である。