全 情 報

ID番号 07687
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 大阪エムケイ事件
争点
事案概要  タクシー会社Yでハイヤー運転手として勤務していたXが、所長から、顧客に対して喋りすぎる、乗車待機中にダッシュボードに足を上げていたなどといった接客態度上の問題点を指摘され、退職届に署名するよう求められたため、署名はしたものの、押印をせず、日付欄も空白にしたまま退職届を所長に提出したところ、所長は労働組合の支部長Aに、今後も苦情が出ればXに右退職届を提出してもらうとの趣旨で右退職届を預けていたが、その約一ヶ月半後に、X立会いの席で支部長Aから係長に右退職届が提出されたことから、XがYに対し、右合意解約は成立していないとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの仮の確認及び賃金の仮払を申立てたケースで、Xの合意解約の申し込みは退職届の提出を持ってなされたものであると解されるから、退職届の提出が、Xの、会社との雇用契約を解約するとの意思に基づいてなされることが必要であるが、Xに真実合意解約するとの意思があったと認めることはできず、合意解約は成立していないとして、賃金の仮払について、申立てが一部認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 退職 / 合意解約
裁判年月日 2000年12月11日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成12年 (ヨ) 10081 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労経速報1761号14頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-合意解約〕
 本件での債権者の合意解約の申込みは、平成一二年六月二日の退職届の提出をもってなされたものであると解されるから、右退職届の提出が、債権者の、債務者との雇用契約を解約するとの意思に基づいてなされることが必要である(二度目の社内研修の際に債権者が退職届を預けた時点で債権者が正式に合意解約の申込みをしたとは認められない)。しかし、平成一二年六月二日に退職届をA係長に渡したのはB支部長であり、債権者は一切退職届に触れることもなく、日付の記入も、押印もなされなかったことは当事者間に争いはなく、そのような経緯で提出された退職届によっては当然に債権者に真実合意解約するとの意思があったと認めることはできない。
 B支部長からA係長に退職届が提出される際に、債権者が明確に異議を述べなかったことは認められるものの、それはA係長に以前から今後も苦情が続く場合には正式に退職届を受理して退職してもらうと告げられていたことなどから、その場で咄嗟に対応することができず、またできるような状況ではなかったことによるものと推認されるのであって、異議を述べなかったからといって、債権者がB支部長による退職届の提出を真実納得し、承認していたと認めることはできない。
 むしろ、退職届提出後の債権者の言動によれば、退職届提出の際に、債権者には合意解約するとの意思は存在していなかったと認めるのが相当である。
 したがって、債権者との間で合意解約が成立したとの債務者の主張は採用できない。