全 情 報

ID番号 07699
事件名 超過勤務手当等請求事件
いわゆる事件名 日本郵便逓送事件
争点
事案概要  郵便物等の運送事業などを目的とする株式会社Yに大型運転士として採用された期間雇用労働者であったXら六名(二名は退職)が、午前九時から翌日午前九時までの二四時間勤務(うち二時間休憩時間)に就いた際に、午後一一時から翌日午前五時までの時間帯については仮眠時間とされて超過勤務手当(二五%)及び深夜作業手当(三〇%)は支給されず、例外的に右仮眠時間前に開始された業務が同時間中まで継続したり、同時間中の突発臨時便の要請により現実に業務に従事した場合のみ、その従事した時間に対し右各手当が支給されるのみであったところ、本件仮眠時間中に突発臨時便を運行して郵便物を決められた日時に目的地まで運送することはYと地方郵政局との間の基本契約上Yに義務づけられており、仮眠時間中は外出・帰宅を原則禁止しかつ仮眠室での仮眠が義務付けられていたことから、本件仮眠時間も労基法上の労働時間に該当するとして、労働契約に基づく超過勤務手当及び深夜作業手当の支払を請求したケースで、仮眠時間中の運行指示も業務命令であり、Xらはこれを拒否することができず、Xらは本件仮眠時間中も労働から完全に解放されていなかったといわなければならなかったことから、Xらは本件仮眠時間中も使用者であるYの指揮命令下にあって労務の提供を義務づけられていたというべきであるとして、請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法32条
労働基準法3章
体系項目 労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 仮眠時間
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 労基法違反の労働時間と賃金額
裁判年月日 2000年12月22日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 167 
裁判結果 認容(確定)
出典 労働判例806号43頁/労経速報1780号21頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間-労働時間の概念-仮眠時間〕
 労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働慣行などによって決定されるものではない。
 そして、労働時間は、形式的には労働者が使用者の拘束下にある時間のうち休憩時間を除いた実労働時間をいうところ、ここにいう休憩時間とは、就業規則等で休憩時間とされている時間を指すのではなく、現実に労働者が自由に利用することができる時間を指す。すなわち、現実に労務に従事していなくても、労働力を使用者の自由な処分に委ね、使用者の指揮命令下にあって労働者が労務の提供を義務づけられた時間であれば、たとえこれが就業規則等で休憩時間とされているものであっても、なお労働時間に当たるというべきである。
 したがって、本件仮眠時間が労働時間に当たるか否かを検討するには、これが使用者の指揮命令下にあって労働者が労務の提供を義務づけられた時間であるのかという観点から、労働からの解放がどの程度保障されているか、場所的時間的にどの程度解放されているかを実質的に判断しなければならない。〔中略〕
 本件仮眠時間が労働時間に当たるか否かを検討するに、被告は、地方郵政局との間の基本契約において、既定便、既定臨時便及び突発臨時便を運行して、郵便物を決められた日時に目的地まで運送すべき義務を負っているから、突然の荷量の増加などによって突発臨時便が出た場合には、午後11時から翌日午前5時までの本件仮眠時間であっても、これに対応して臨時便を運行することが基本契約上義務づけられていたため、期間雇用労働者を24勤服務に従事させ、本件仮眠時間中も外出や帰宅を原則として禁止し、かつ、仮眠室で仮眠しなければならないものと定めていたのである。そうすると、被告が本件仮眠時間中に期間雇用労働者に臨時便の運行を指示した場合、これに応じるかどうかを同労働者の自由な意思に委ねていたとは考えられないので、本件仮眠時間中の運行指示も業務命令であり、原告らがこれを拒否することはできなかったのであり、原告らは、本件仮眠時間中も労働から完全には解放されていなかったといわなければならない。〔中略〕
 したがって、原告らは、本件仮眠時間中も使用者である被告の指揮命令下にあって労務の提供を義務づけられていたというべきである。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-労基法違反の労働時間と賃金額〕
 被告は、原告らに対し、別紙未払賃金計算書1ないし6末尾の「請求額」記載のとおり、本件仮眠時間に対する超過勤務手当及び深夜作業手当から支払済み分を控除した未払額を支払わなければならない。