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ID番号 07700
事件名 雇用関係不存在確認請求、雇用関係存在確認等反訴請求控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 済生会・東京都済生会中央病院(定年退職)事件
争点
事案概要  社会福祉法人Xが支部Aで雇用し、病院Bの事務局事務次長、参事に任命後、さらに同病院の総務部長に任命していたYを、病院Bの就業規則に規定に基づいて定年六〇歳に達したことを理由に定年退職扱いとしたが、Yが、Yは支部Aの管理職の職位である参事として雇用されたのであって、支部Aの就業規則が適用されるべきで、その定年は支部Aの就業規則で定められている七〇歳である等と主張して定年退職につき争ったため、〔1〕XがYに対して、雇用契約関係不存在の確認を請求した(本訴)のに対し、〔2〕YがXに対し、支部A参事及び病院B総務部長としての雇用契約上の地位確認及び賃金支払を請求した(反訴)ケースの控訴審で、原審では、〔1〕については請求が却下、〔2〕いては、七〇歳の定年制を採用する支部Aの定年条項が適用されるべきであるとして、請求が一部認容されていたが、控訴審では本訴・反訴請求の重なり合う限度で反訴請求は不適法となるが、反訴のうち地位確認請求は本訴及び反訴とも適用と解するのが相当であるとしたうえで、〔2〕について、Aの就業規則では参事は管理職には該当せず定年は六〇歳、B病院では管理職を含む全職員につき六〇歳定年とする労使慣行が成立していたから、Yには六〇歳定年制が適用されるとして、Xの控訴が一部認容された事例(原審が取消され、XがYに支払った額の返還がYに命じられた)事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法92条
労働組合法16条
労働基準法2章
体系項目 退職 / 定年・再雇用
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働慣行・労使慣行
裁判年月日 2000年12月25日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ネ) 4574 
平成11年 (ネ) 5692 
平成12年 (ネ) 4519 
裁判結果 変更(上告)
出典 時報1752号150頁/労働判例812号71頁
審級関係 一審/07443/東京地/平11. 8.24/平成9年(ワ)23701号
評釈論文 岩村正彦・ジュリスト1232号197~200頁2002年10月15日
判決理由 〔退職-定年・再雇用〕
 就業規則は、企業経営の必要上労働条件を統一的、かつ、画一的に決定するものであるが、企業における個々の事業場を単位として作成、届出がされるものであり(労働基準法89条、90条、92条参照。なお、労働組合法17条参照)、それが合理的な労働条件を定めているものである限り法的規範としての性質を認められる(最高裁判所昭和43年12月25日大法廷判決民集22巻13号3459頁)。したがって、同一企業であっても、事業場が異なるのであればそれぞれ異なる内容の就業規則を制定することは可能であるが、それぞれ合理的な労働条件を定めているものであることを要するし、就業規則の規定内容が異なることが取りも直さず労働基準法3条、4条に違反することとなるのであれば、その部分が無効となるというべきである。なお、退職に関する事項が就業規則の必要的記載事項とされている(労働基準法89条3号)ことからすると、各事業場の就業規則で異なる定年年齢を定めること自体は許されると解するのが相当である。
 同一企業の複数の事業場にそれぞれ異なる内容の就業規則が制定されている場合に、その複数の事業場の職務を兼務している労働者がいるときは、各就業規則の中に適用関係を調整する規定が設けられていればそれに拠ることになるが、調整規定が設けられていない場合には、ある事業場の職務に関しては当該事業場の就業規則が適用になるのが原則であると解するのが相当である。ただ、右原則を適用した結果不合理な事態が生じるような場合、あるいは、複数の事業場の職務が明確に区別できないような場合等には、各就業規則の合理的、調和的解釈により、その労働者に適用すべき規定内容を整理、統合して決定すべきである。〔中略〕
 本件雇用契約締結当時、A就業規則には、管理職につき70歳、それ以外の職員につき60歳という定年条項があり、B病院旧就業規則には、解雇事由として「老令(ママ)により爾後業務に耐えられないと認めたとき」を掲げていただけで、定年に関する規定はなかったから、定年に関する両者の規定は異なっていた。ただ、B病院旧就業規則は、右の解雇事由を掲げていたことからも明らかなとおり、定年に関して規定していなかったからといって、B病院に勤務する職員について終身雇用を保障する趣旨であったわけではなく、むしろ、B病院に勤務する職員についてはB病院従業員組合との間で昭和44年5月16日にB病院の常勤職員の定年を満60歳と定める労働協約が締結され、昭和45年5月16日から施行されていた(〈証拠略〉。その詳細は後記五、1、(一)のとおりである。)のであるから、同年10月16日に改正、施行されたB病院旧就業規則は、右労働協約による定年制の規律に服することを当然のこととしつつ(労働基準法92条、労働組合法16条参照)、右労働協約の規範的効力及び労働組合法17条所定の要件を満たすとすればその一般的拘束力による定年制の規律に反しない限りにおいて、個別の雇用契約によって定年が合意され、あるいは定年制を内容とする労使慣行が形成されることを許容する趣旨であったと解するのが相当である。(なお、就業規則に優先する効力を有する労働協約によって定年制が導入されるのは当然のことである。)。そして、被控訴人が60歳に達した平成9年2月11日の時点では、B病院就業規則が60歳(管理職を含めるか否かにつき争いがあるが、B病院就業規則(〈証拠略〉)30条の文言に照らし、管理職も含まれるものと解するのが相当である。)の定年条項を規定するに至っていた。
 したがって、被控訴人は、原則として、参事としてはA就業規則の適用を受け、70歳(管理職)又は60歳(管理職以外の職員)で定年となり、B病院総務部長としてはB病院就業規則の定年条項が被控訴人にも適用されるとすると60歳で定年となる。〔中略〕
 以上のとおり、A事務局の参事の定年は60歳であり、また、60歳定年を定めるB病院就業規則が被控訴人に適用になるとすると、被控訴人は、60歳で控訴人を定年退職したことになる。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働慣行・労使慣行〕
 B病院旧就業規則を廃止し、B病院就業規則を制定する際に管理職をも対象とする60歳定年制について労働組合が意見を述べなかったり、B病院就業規則に60歳定年の規定が設けられた以降に、右就業規則の規定に従った事務処理が特段の疑問も持たれずに行われ、被控訴人自身もそのような事務処理に関与していたのも、被控訴人を含めてすべての職員が、右就業規則の規定の効力に疑問を持っていた(ママ)なかったからに他ならないと考えられる。確かに、ごく少数とはいえ、使用者側が定年延長の手続(これ自体法的根拠のあるものではない。)を経る等して、60歳を過ぎても常勤職員として勤務していた者があったことは間違いなく、そのような法的根拠のない恣意的ともいえる運用をすることは遺憾であるといわざるを得ないが、少なくとも定年延長の手続が行われたということは、60歳定年制が前提となっていたということができる。したがって、B病院では管理職については、事実上、昭和45年ころから60歳定年制が行われており、このことについて労働者側から異議も出されず、使用者側も60歳定年制を承認し、これに従った事務処理をしてきたのであるから、60歳定年制は、遅くとも平成3年12月4日には労使慣行になっていたというべきである(被控訴人は、原審において、本件雇用契約を締結する際に定年が70歳であることをB病院院長のCに確認した旨供述し、〈証拠略〉にも同旨の記載がある。しかし、右供述及び右記載は、既に判示したごく少数の例外を除いて60歳で定年退職していたこと、定年退職に伴う事務処理等に照らし採用しない。)。
 そうすると、B病院就業規則で60歳定年を定め(ママ)ことは就業規則の不利益変更に当たらず、被控訴人にも適用される。