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ID番号 07729
事件名 損害賠償等請求控訴事件
いわゆる事件名 わいわいランド(解雇)事件
争点
事案概要  ヤクルト販売会社Zとの保育業務委託契約成立を見込んだ保育所経営会社Yに、保育ルームのトレーナーとしての就職を勧誘され、おおむね承諾していた当時幼稚園教諭であったX1及び工務店等で勤務していたX2(幼稚園教諭歴あり)は、その数ヶ月後、労働条件を記載した雇入通知表と就労開始月の勤務表を交付され、X1は承諾、X2は労働条件が勧誘時の会社の説明と異なっていたため、考えさせて欲しいと述べるに止まっていたところ、その後、Xらは会社Yの指示により出席した会議でトレーナーとして紹介されたが、結局、Yは、委託業務契約が成立しなかったことを理由に就労開始前にXらに対し、「この話はなかったことにして下さい」と述べたため、Xらは、これは解雇の意思表示であり、解雇権濫用にあたるとして、債務不履行又は不法行為責任に基づく慰謝料等の支払を請求したケースの控訴審(Xらは、控訴審で、予備的請求として、YはZとの業務委託契約が未成立であったことについて説明する義務を怠ったとして損害賠償等の支払請求を追加している)で、主位的請求について原審では、X1に対する本件解雇は解雇権濫用に該当するとして解雇手当及び慰謝料請求の支払請求が一部認容、X2に対する雇用契約の申込みの撤回が不法行為に該当するとして慰謝料請求が一部認容されていたが、X2についてはそもそも雇用契約の成立が認められず、X1については、期限のない雇用契約の成立が認められるものの、本件解雇はやむを得ないものであって権利の濫用や信義則に違反するものではないとして慰謝料請求が棄却され、また即時解雇としての効力が生じないとして解雇予告手当ての請求も棄却されたが、控訴審での予備的請求については、Y代表取締役の一連の行為は、Xらが雇用の場を得て賃金を得ることができた法的地位を違法に侵害した不法行為にあたるとして、損害賠償請求が一部認容されて(X1については本件解雇が生ずるまでの一ヶ月間の賃金支払を請求が認められている)、原審の判断が変更された(XYの控訴が一部認容・一部棄却)事例。
参照法条 労働基準法2章
民法623条
労働基準法20条
労働基準法114条
民法709条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 受託契約の不成立
解雇(民事) / 解雇予告手当 / 解雇予告手当請求権
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2001年3月6日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ネ) 2601 
平成12年 (ネ) 2602 
裁判結果 一部認容、一部棄却(上告)
出典 労働判例818号73頁
審級関係
評釈論文 鴨田哲郎・労働法律旬報1535号52~56頁2002年9月10日/山川隆一・ジュリスト1229号196~199頁2002年9月1日/小久保哲郎・季刊労働者の権利243号67~70頁2002年1月/小宮文人・法律時報75巻4号107~110頁2003年4月
判決理由 〔解雇-解雇事由-受託契約の不成立〕
 使用者は、被用者との雇用契約が期限の定のないものである場合、権利の濫用等の場合を除いて、解雇の意思表示によって雇用契約を終了させることができる。
 2 第一審被告は、第一審原告X1と期限の定のない雇用契約を結び、そのなかで同第一審原告の職種等として補助参加人等からの委託に基づくヤクルト保育ルームでの保母及びトレーナーとする旨を合意したことが認められる。
 ところが、前示認定のとおり、補助参加人との保育業務委託契約が成立するに至らなかったため、第一審原告X1に提供する職場を確保することができなくなった。そこで、第一審被告は平成11年4月6日に第一審原告X1を解雇する旨の意思表示(本件解雇)をしたものである。
 3 本件解雇は、予定していた補助参加人の保育所における業務を第一審被告が委託を受けることができなくなったという客観的な事実を理由とするものである。第一審原告X1もそこを職場とすることを予定して雇用契約を結んだものである。したがって、本件解雇は、やむをえないものであって、権利の濫用や信義則に違反するとはいえない。〔中略〕
〔解雇-解雇予告手当-解雇予告手当請求権〕
 第一審被告は、第一審原告X1に対する本件解雇をするにあたり30日以上前にその予告をしたとは認められない。したがって、その解雇通知は、即時解雇としての効力を生じないが、特段の事情がない限り、通知後労働基準法20条1項所定の30日の期間を経過したときに解雇の効力を生ずるものである(最判昭和35・3・11民集14巻3号403頁参照)。したがって、第一審被告に対し労働基準法114条所定の付加金請求権はともかく、同法20条1項に基づく同条項所定の30日分以上の平均賃金相当の解雇予告手当の支払請求権が生ずるわけではない。
 この場合、同第一審原告は、本件解雇の生ずるまでの期間の賃金請求をなすことができる(民法413条、536条2項)。
 2 以上によると、第一審原告X1の第一審被告に対する解雇予告手当の支払請求は理由がなく棄却を免れない。しかし、同第一審原告は第一審被告に対し平成11年4月6日からの1か月分の賃金24万円の支払を求めることができる。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 (1) Yは、保育所を運営する第一審被告の代表者として、第一審原告らに積極的に働きかけ、具体的な雇用条件を提示して第一審被告との雇用契約を結ぶことを勧誘した。第一審原告らは、その結果、Yの言葉を信頼し、第一審被告と雇用契約を結んだうえ、相当期間保母等として勤務を続けることができるものと期待した。
 (2) 雇用契約の性質上、労務に服する第一審原告らが、第一審被告と雇用契約を結ぼうとする場合は、勤務先があるときはこれを解約し、また転職予定があってもこれを断念しなければならない。
 Yはこのことを知っていたか、知ることができたはずである。
 (3) 雇用によって被用者が得る賃金は生活の糧であることが通常であることにもかんがみると、Yは、第一審原告らの信頼に答(ママ)えて、自らが示した雇用条件をもって第一審原告らの雇用を実現し雇用を続けることができるよう配慮すべき信義則上の注意義務があったというべきである。また、副次的には第一審原告らがYを信頼したことによって発生することのある損害を抑止するために、雇用の実現、継続に関係する客観的な事情を説明する義務もあったということができる。
 (4) ところが、Yは、補助参加人との保育業務の委託契約の折衝当初からこれが成立するものと誤って判断した。そのうえ、その折衝経過及び内容を第一審原告らに説明することなく、業務委託契約の成立があるものとして第一審被告との雇用契約を勧誘した。その結果、第一審原告X1については契約を締結させたものの就労する機会もなく失職させ、同X2については雇用契約を締結することなく失職させたものである。
 第一審被告に帰責事由がないとの第一審被告の主張は採用できない。
 (5) 以上のYの一連の行為は、全体としてこれをみると、第一審原告らが雇用の場を得て賃金を得ることができた法的地位を違法に侵害した不法行為にあたるものというべきである。したがって、Yが代表者の地位にある第一審被告は民法709条、44条1項により、これと相当因果関係にある第一審原告らの損害を賠償する義務がある。〔中略〕
 前示認定の第一審原告X1の再就職状況や通常再就職に要する期間(数か月単位であろう。)、雇用保険法における一般被保険者の求職者給付中の基本手当の受給資格としての最低被保険者期間が6か月であること(最低限度の就職期間と評価することができる。)にかんがみると、第一審原告X1が第一審被告の不法行為によって第一審被告から賃金を得ることができなかった期間のうち、その5か月分(同第一審原告は前示のとおり平成11年4月分の賃金の支払を受けることができるから、これとあわせて6か月分となる。)を不法行為と相当因果関係に立つと認めるのが相当である。