全 情 報

ID番号 07754
事件名 雇用関係確認等請求事件
いわゆる事件名 久留米信愛女学院事件
争点
事案概要  私立学校の設置を目的とする学校法人Yの設置する高校の教諭として、期間を一年とする常勤講師として雇用されたXが、授業や部活動において生徒指導する際に共感性が不足し、生徒と口論になることが多く、生徒指導や授業内容などに問題があったため、他の先生がXの生徒指導等のあり方を心配して毎週打合せを行ったり、日常的に助言するなどしていたが、改善された様子がなかったことから、YはXに対し、雇用契約を終了する旨の通知をしたところ、Yに対し、常勤講師契約は実質において期限の定めのないものである、仮に期限が定められていたとしても専任教諭として採用しないのは違法であるなどと主張して雇用契約上の地位の確認及び賃金等の支払を請求したケースで、本件常勤講師契約は一年間という期間の定められた契約であるが、期間満了により契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなど特段の事情がないので、その期間は契約の存続期間ではなく、試用のために設定されたものであって、雇止めには適格性判断の観点から客観的に合理的で社会通念上相当な理由を要する契約であると解するのが相当であるとしたうえで、Xには、生徒の話や他の教師の指導・助言を真摯に受け止める資質に欠けており、早期に改善を図ることも困難であるので、教師としての適格性に問題があると判断してYがXを雇止めしたことには客観的に合理的で社会通念上相当な理由があるものと認められるとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法14条
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
労働契約(民事) / 労働契約の期間
裁判年月日 2001年4月27日
裁判所名 福岡地久留米支
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 156 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1775号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約の期間〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 (ア)採用面接において、A校長は原告に対して期間が一年の常勤講師契約であると説明しており、常勤講師契約書にも同様の記載があり、原告は常勤講師契約書に署名押印していること、(イ)被告においては、平成元年以降、期間一年の常勤講師契約を締結した上でその期間内に教員としての適格性を判断し、適格性があると判断した場合に専任教諭としての辞令を交付しており、A校長は原告との面接の際にも、期間内に教員としての適格性を見る旨伝えていたこと、(ウ)民法、労働基準法等の労働法規には、労働契約締結に際して期間を設定するに当たり、その期間の趣旨・目的に格別の制限を設けておらず、適格性判断の目的で有期契約を締結することも可能であること、(エ)学校教育は一年を単位に行われており、一年間という期間も合理的なものといえることからすると、本件常勤講師契約は一年間という期間が定められた契約であるが、期間の満了により契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情は認められないので、その期間は契約の存続期間ではなく、試用のために設定されたものであって、雇止めには適格性判断の観点から客観的に合理的で社会通念上相当な理由を要する契約であると解するのが相当である。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 本件常勤講師契約において期間が設定された趣旨は、被告の設置する中学校や高等学校における原告の教員としての適性を評価し、判断することにあるから、雇止めをしたことに客観的に合理的で社会通念上相当な理由があるかどうか検討する。
 前記認定事実によれば、原告には、授業や部活動において生徒を指導する際に、生徒の話しを受け止めた上で自分の意見を述べる姿勢がなく、共感性が不足していたために、生徒と口論となることが多く、生徒らは、本件訴訟を知るや、自主的に原告の復職反対の署名活動を行って、約九〇名もの生徒が署名しており、理由も具体的かつ詳細に記載されている。これらのことからすると、生徒は原告の生徒指導や授業内容等について相当不満を有していたと認められ(原告の授業に対する感想(書証略)は、記名式のアンケート調査であり、生徒らは来年度も原告が授業を担当する可能性があると認識していたこと、原告の復職反対の嘆願書(書証略)に、元一年六組の生徒である旨明示している署名が相当数あり、その中には(書証略)の内容は真意ではないと書かれているものがあることに照らし、生徒らの原告に対する評価がそのまま表現されていると見ることは困難である)、原告の生徒指導や授業のあり方には相当問題があったと言わざるを得ない。
 また、社会科担当のB、C、D教諭や、原告が副担任をしていたクラスの担任であったE、F教諭などは、原告の生徒指導のあり方や授業を心配して、原告と毎週打ち合わせを行ったり、日常的に助言をしたり、原告が生徒とトラブルを起こした際に指導・助言を行ったりしたが、上述したように、原告の生徒指導、授業内容などが改善された様子はなかったのである。
 これらのことからすると、原告には、生徒の話しや他の教師の指導・助言を真摯に受け止める資質に欠けており、早期に改善を図ることも困難であるので、教師としての適格性に問題があると判断して、被告が原告を雇止めにしたことには、客観的に合理的で社会通念上相当な理由があるものと認められる。