全 情 報

ID番号 07799
事件名 未払賃金等請求控訴事件
いわゆる事件名 岩手第一事件
争点
事案概要  自動車学校の経営を目的とする会社Yで指導員として勤務するXら六名が、Yの就業規則では、一ヵ月平均週40時間とする一ヵ月単位の変形労働時間制を採用する旨の規定が設けられており、一日の所定労働時間を七時間一〇分とされていたが、所定の休日以外の労働日の労働時間数をすべて上記の所定労働時間の通りにすれば一ヶ月平均の週労働時間が四〇時間を超える月が生じることから、一ヶ月平均週四〇時間を超えないように、〔1〕所定週休日以外にも休日を指定する、〔2〕各変形期間内の特定の日における労働時間の短縮する、〔3〕季節又は業務の都合により一定期間内の特定の日又は週について労働時間を延長・短縮する旨を定めた規定に基づき、勤務割表で変形期間開始前の三日ないし五日前に基本的な就業形態とは異なる日及び勤務時間、休日等が提示されていたことから、当該変形労働時間制度を定めた就業規則は労基法三二条の二に違反して無効であることの確認を請求したケースの控訴審(Y控訴)で、原審の判断と同様、労働基準法三二条の二は労働者がその日又はその週における労働時間をある程度予測できるような規定を設けておくべきことを要求しており、使用者がその就業規則の各規定に従って勤務割表を作成し、これを事前に従業員に周知させただけでは同規定の要件を充足するものであるとするものではないとして、Yの控訴が棄却された事例。
参照法条 労働基準法32条の2
体系項目 労働時間(民事) / 変形労働時間 / 一カ月以内の変形労働時間
裁判年月日 2001年8月29日
裁判所名 仙台高
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ネ) 125 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例810号11頁
審級関係 一審/07718/盛岡地/平13. 2.16/平成10年(ワ)158号
評釈論文 石橋乙秀・労働法律旬報1521号13~17頁2002年2月10日
判決理由 〔労働時間-変形労働時間-一カ月以内の変形労働時間〕
 前判示のとおり、労働基準法32条の2及び前記労働基準局長の各通達(昭和63年1月1日基発第1号、同年3月14日基発第150号)の趣旨は、1か月の変形労働時間制を採用する場合には、使用者が日又は週に法定労働時間を超えて労働させることが可能となる反面、過密な労働により、労働者の生活に与える影響が大きいため、就業規則等において、単位期間内におけるどの日又は週が法定労働時間を超えるのかについてできる限り具体的に特定させ、それが困難であっても、労働者がその日又は週における労働時間をある程度予測できるような規定を設けておくべきことを要求しているのであって、使用者が就業規則の各規定に従って勤務割表を作成し、これを事前に従業員に周知させただけで、同法32条の2の「特定された週」又は「特定された日」の要件を充足するものであるとするものではない。前判示のとおり、本件就業規則がそのような要件を充足するものでないことは明らかであり、控訴人の主張は採用できない。〔中略〕
 控訴人は、本件就業規則20条が、「前条の始業・終業の時刻および休憩の時間は、季節または業務の都合により変更し、一定の期間内の特定の日あるいは特定の週について労働時間を延長し、もしくは短縮することがある。」との規定は、一定の事由が生じた場合に労働時間を変更することがありうるという一般条理に従った当然のことを規定したにすぎず、「控訴人が任意に労働時間を変更できる」ことを意味するものではない等主張する。
 しかしながら、本件就業規則20条の規定は、使用者が「季節または業務の都合」により労働時間を変更できると定めており、これについて格別の制約を設けているものではないことに照らせば、使用者において、「季節または業務の都合」により必要と判断した場合には、一方的に労働時間を変更することを容認する規定と解さざるを得ない。この規定は、使用者による任意の労働時間の変更を認める趣旨ではないとする控訴人の主張は理由がない。また、控訴人は、使用者は一般条理に従い、繁忙等業務上の必要があれば任意に労働時間を変更することが当然に可能であるとも主張するようであるが、そのようなことは時間外労働として対処すべき問題であり、控訴人の解釈に従うときは、労働時間に関する労働基準法や就業規則の規定は意味をなさなくなるから首肯できない。控訴人の主張は、いずれにしても採用できない。