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ID番号 07834
事件名 従業員たる地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 崇徳学園事件
争点
事案概要  学校法人Yに長期計画推進室長として雇用され法人事務局次長を兼務していたXが、〔1〕台風災害の復旧工事に関し、Yの法人事務組織規程、決裁規程、経理規定等に違反し、適切な事務処理、会計処理を行わず、また工事の請負業者であったE社に工事代金の不当な水増し請求をさせるなどしてその任に背き、Yに損害を与えたこと、〔2〕リース契約に関し、Yとクレジット会社との間に必要もないのに殊更E社を介在させ、虚偽の内容のリース契約をさせるなどして、E社に不当な利得を得させたこと、〔3〕日常の勤務態度は劣悪であり、Yの職員としての適格性を欠く行為が多々あること、を理由に懲戒免職処分とされたことから、Yに対し、これを不当として従業員たる地位の確認及び賃金等の支払を請求したケースの控訴審で、〔1〕〔2〕については、Xには、決裁手続をとらなかったことや対象とならない消耗品を含めてリース契約をするなど理事長の方針を逸脱してYに会計上の混乱をもたらし結果的に相当額の損害を与えた責任などはあるが、経理課長にも一部責任があり、またE社に不当な利益を得させるためになされたとも認められないとし、また〔3〕についてもその勤務態度が劣悪とまでは認められない、として、本件処分は、当該処分事由とされた行為と処分内容との間で著しく均衡を失し、社会通念上合理性を欠いたものであるというべきで無効であるとして、原審の懲戒免職処分を相当とした判断が取り消され、Xの控訴が認容された事例。
参照法条 労働基準法89条9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 1999年4月13日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ネ) 194 
裁判結果 原判決取消(上告)
出典 労働判例823号17頁/労経速報1802号18頁
審級関係 上告審/07905/最高三小/平14. 1.22/平成11年(受)768号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 控訴人には、台風19号の復旧工事を担当するに当たり、工事の施工、保険金収入及びこれによる工事代金の支出につき、決裁の手続を経ず、これらにつき、適正な会計帳簿を作成しなかった違法(私立学校振興助成法14条1項違反、学校法人会計基準2条違反、被控訴人学園決裁規程3条違反)があり、処分理由2については、控訴人には、消耗品を対象とするなどの不適切な内容のリース契約を締結させ、また、被控訴人の工事代金を調達するために架空のリース契約を締結させるなどして、適正な会計処理を行わなかった違法(私立学校振興助成法14条1項違反、学校法人会計基準2条違反)があり、結果的に、被控訴人をして一時に多額の金員の支出を余儀なくさせて被控訴人の会計上に混乱を生じさせ、また、右解約時の残リース料よりも多額の解約金を支払うことになったことにより相当額の損害を被らせたものであり、処分理由3については、控訴人の勤務態度にはルーズな面が見られ、部下職員に対しても公私を混同したとみられる面があったことは前記認定のとおりである。
 そうすると、控訴人には懲戒に値する行為があったものというべきである。しかしながら、処分理由1の事実についてみれば、控訴人には、決裁手続をとらなかったことについて責任があるものの、適正な会計帳簿を作成しなかったことについては、その第一次的責任は経理の責任部局である経理課長にあるところ、その当時、A経理課長は、復旧工事の費用が保険金で賄われることを認識しながら、このための経理処理をすべきことを失念していた(この当時、B局長、控訴人ともこれを失念していた。)ことからすると、経理処理がされなかった責任を控訴人にのみ負担させることには疑問がある。また、控訴人が、Cワークを保険金請求について元請的な立場に置いたのは、保険対象外の工事についても保険金で賄い、被控訴人の工事費の負担を免れることにあり、Cワークに不当な利益を得させることにあったものではなく、また、これにより被控訴人に損害を与えたものとも認められない。次に、処分理由2の事実については、控訴人が、消耗品を含めリースとしたのは、備品等をできるだけリースを利用して調達するというD理事長の方針を逸脱して運用し、このため、被控訴人の会計上に混乱をもたらし、結果的に相当額の損害を与えた責任は免れないが、Cワークに不当な利益を得させるためにリースを行ったものとは認められない。また、消耗品の購入や階段教室の工事費について適正な経理処理が行われなかったことについては経理課長にも応分の責任がある。さらに、処分理由3の事実については、控訴人の勤務態度などが右認定の限度で学校職員としての適格性を欠いた面が見られるものの、被控訴人のこの点についてのその余の主張事実は認定するに至らず、その勤務態度が劣悪であるとまでは認められない。これに加え、控訴人は、被控訴人に長期計画推進室長として雇用されたものであるところ、右室長としての業務の遂行内容に特段の問題があったとは窺われないこと(控訴人の勤務態度についての認定判断は前記3のとおりである。)、また、学園施設の保守、管理、資材の購入の直接の責任部局は管財課であるところ、その当時、管財課長が空席であったために、管財業務に精通しているとは認められない控訴人が復旧工事や備品等の購入といった管財業務の責任をも負担することになったが、被控訴人の当時の内部組織上、これに対する十分な監督、指導、助言の体制がとられていたとは窺われないこと、右処分理由1、2による懲戒処分を控訴人のみが受け、これに応分の責任があると認められるA経理課長や、法人事務局の責任者であるB局長には何らの懲戒処分もされていないことをも勘案すれば、被控訴人が控訴人に対し、懲戒処分として免職処分を選択したことについては、当該処分事由とされた行為と処分内容との間で著しく均衡を失したものであって、社会通念上合理性を欠いたものというべきである。
 したがって、控訴人に対する本件懲戒免職は無効である。