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ID番号 07862
事件名 行政処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 広島中央労働基準監督署長事件
争点
事案概要  約三〇年にわたりずい道工事現場等で主に坑夫として粉じん作業等に従事し、じん肺(けい肺)に罹患した後に併発した肺がんで昭和五九年に死亡した労働者A(大正一〇年生まれ)の妻Xが、上記肺がんによる死亡は業務に起因するものであるとして、Y(広島中央労働監督署長)に対して遺族補償給付等を請求し、不支給処分を受けたためその取消しを求めていたケースで、業務起因性を否定した原判決を取り消し、業務起因性が認められた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
労働基準法施行規則別表1の2第5号
じん肺法4条2項
労働基準法施行規則別表1の2第7号18
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 2001年4月26日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (行コ) 1 
裁判結果 控訴棄却(確定)
出典 タイムズ1086号137頁
審級関係 一審/06788/広島地/平 8. 3.26/平成1年(行ウ)17号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 我が国でも国際的な動きを背景として、当時の労働省において、じん肺有所見者に発生した肺がんにつき、局長通達に基づいてじん肺管理区分が管理四及び管理四相当と認められた者に限って補償することが妥当か否かについて、医学的観点から検討することを目的として、「じん肺症患者に発生した肺がんの補償に関する専門検討会」における検討を進めてきたが、平成一二年一二月五日に右検討結果を「じん肺症患者に発生した肺がんの補償に関する専門的検討会報告書」としてまとめたこと、これによると、じん肺と肺がんとの因果関係については、最新の医学的知見によっても現時点ではいまだこれを確定することができないとされていることが認められる。
 (三) そうすると、現時点ではじん肺と肺がんとの間の因果関係を肯定する医学的知見が確立しているとは認めがたく、じん肺と肺がん発生との因果関係につき、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信をもつにはいまだ不十分であるので、その相当因果関係を認定することはできないものというべきである(最高裁判所平成一一年一〇月一二日第三小法廷判決・裁判集民事一九四号一頁参照)。〔中略〕
 しかしながら、前記引用にかかる原判決認定(原判決六六頁一行目から六九頁九行目まで)のとおり、局長通達は、進展したじん肺症に合併した肺がんに存する医療実践上の不利益に着目し、進展したじん肺症に合併した肺がんの病状の持続ないし増悪とじん肺との間には因果関係があることを認めてなされているものと解することができ、またじん肺管理区分の管理四と管理三ロとの限界は実際上明確を欠くこともあり得るので、局長通達のじん肺管理区分にかかる要件を充足しない場合であっても、じん肺に合併した肺がんであって医療実践上の不利益があるものについては、業務上の疾病と認定するのが相当である。これは、労災保険法一条の趣旨にかなうものである。〔中略〕
 右認定の各事実を総合すると、Aのじん肺管理区分は管理四相当と管理三ロの限界上にあるものであるところ、Aは昭和五六年一一月二〇日当時既に肺がんを発症していたが、じん肺の存在によってその肺のエックス線写真にじん肺による粒状のじん肺陰影が多数あったために右肺がんの発見が遅れ、しかもじん肺と相まって著しい肺機能障害が生じていたことに加えて、更に右肺機能障害のために外科手術も受けられず、結局、死亡するに至ったものと認められるから、本件事案においては医療実践上の不利益は著しいものがあるというべきである。
 そうすると、右認定の事実関係の下においては、進展したじん肺症に合併したAの肺がんには医療実践上の不利益が存するので、右肺がんの病状の持続ないし増悪とじん肺との間には因果関係があるものと認めるのが相当であり、したがって、右肺がんは、労働基準法施行規則別表第一の二第九号に該当する業務上の疾病というべきである。