全 情 報

ID番号 07868
事件名 未払賃金請求事件
いわゆる事件名 関西医科大学研修医(未払賃金)事件
争点
事案概要  医科大学を設置・運営する学校法人Yの大学を卒業後、Y設置の付属病院に臨床研修医として所属し死亡したAは概ね七時半頃に登院して一九時頃まで、指導医の指示のもと患者の問診、点滴、見学、自己研修を行い、その後も指導医の診療の補助、手術の立会いをするなどし、通常の退出時刻は二二時頃で、休日も指導医が出勤すれば登院し、また指導医の当直日に副直として院内待機するなど長時間にわたる研修に従事していたが、Aはこの期間中奨学金月額六万円、宿直・日直につき一回一万円しか受領していなかったことから、Aの両親である遺族X1,X2らが、Yに対し、Aは最低賃金法二条一号所定の労働者に該当するにもかかわらず、Yからは同法四条の最低賃金額を下回る給与額しか支払われなかったとして、差額賃金の支払を請求したケースで、Aら研修医は、全体としてみた場合、他人の指揮命令下に医療に関する各種業務に従事しており、Aは最低賃金法にいう労働者に該当するとして、請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法9条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 研修医
裁判年月日 2001年8月29日
裁判所名 大阪地堺支
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 326 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 タイムズ1087号182頁/労働判例831号36頁/第一法規A
審級関係 控訴審/07961/大阪高/平14. 5. 9/平成13年(ネ)3214号
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-研修医〕
 最低賃金法における「労働者」とは、労働基準法9条にいう「労働者」と同義であるところ(最低賃金法2条1号)、労働基準法9条において、「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」である旨規定されている。
 そして、「使用される者」とは、他人の指揮命令ないし具体的指示のもとに労務を供給する関係にある者をいうと解されるが、具体的に「使用される者」に該当するか否かは、(イ)仕事の依頼、業務従事への指示等に関する諾否の自由の有無、(ロ)業務遂行上の指揮監督の有無、(ハ)場所的・時間的拘束性の有無、(ニ)労務提供の代替性の有無、(ホ)業務用器具の負担関係、(ヘ)報酬が労働自体の対償的性格を有するか否か、(ト)専属性の程度-他の業務への従事が制度上若しくは事実上制約されているか、(チ)報酬につき給与所得として源泉徴収を行っているか等を総合的に考慮して判断されるべきである。〔中略〕
 Aらは、指導医が診察する際に、その診察を補助するとともに、指導医からの指示に基づいて、検査の予約等をしており、指導医と研修医との間に業務遂行上の指揮監督関係が認められること、平日(月曜日から金曜日)の午前7時30分から午後7時までの研修時間中においては、Aらに指導医からの指示に対する諾否の自由が与えられていなかったこと、月曜日から金曜日は午前7時30分までに被告病院に赴き、入院患者の採血を開始し、午後7時ころに入院患者への点滴が終了するまでは被告病院におり、土曜日及び日曜日についても、午前7時30分までには被告病院に赴き、入院患者の採血や点滴をしており、場所的・時間的拘束性が認められること、業務用器具についてはいずれの作業も被告病院の器具を用いること、被告は研修医に対して月額6万円及び副直手当相当額の金員を支給していること、被告病院における研修内容及び拘束時間に照らせば、Aら研修医は、事実上、他の業務への従事が制約されていること、Aが被告から支給を受けた金員は、給与所得として源泉徴収がなされていることが認められ、これらの事情を総合して検討すれば、Aら研修医は、研修目的からくる自発的な発意の許容される部分を有し、その意味において特殊な地位を有することは否定できないが、全体としてみた場合、他人の指揮命令下に医療に関する各種業務に従事しているということができるので、Aは「労働者」(労働基準法9条、最低賃金法2条1号)に該当すると認められる。