全 情 報

ID番号 07874
事件名 公務外認定処分取消請求事件
いわゆる事件名 地公災基金北海道支部長(小学校教頭)事件
争点
事案概要  北海道喜茂別町立の小学校の教頭A(五五歳・動脈硬化あり・定期健康診断の血液検査は正常値)は、昭和六三年四月以降、教頭として勤務時間内の職務のみならず、勤務時間外にクロスカントリースキーの指導等の校内外の教育活動等に従事し多忙であったが、加えて校長と職務上対立したこともあってストレスを感じるようになり、その後も同年一一月中旬は、寒冷の中、ほとんど連日にわたり、勤務時間前にスキーの練習コース設計作業を行い、また平成元年一月中旬以降は、勤務時間内はスキー学習の指導に従事、休日にも校外教育活動に従事し疲労が蓄積するまま学年末及び異動期の繁忙期を迎えて徹夜又は徹夜に近い状態で学校関係文書の作成作業を行うなどしたため重度の疲労状態に陥いっていたところ、学校行事であるスキーの練習コース設営等の作業に従事した後に心筋梗塞の発作を起こして緊急入院し、更に仮退院中に再び心筋梗塞の発作を起こして入院後、急性心不全により死亡したことから、Aの妻Xが地公災基金北海道支部長Yに対し、Aの死亡は公務上災害であるとして地方公務員災害補償法に基づき公務上認定の請求をしたところ、公務外認定処分とされたため、右処分の取消しを請求したケースで、本件発症直前には、五五歳のAにとって肉体的精神的にかなりの過重負荷の状態に至っていたものであるから、この公務の過重負荷に伴うストレスより、基礎疾患である粥腫の形成・破綻が自然的経過を超えて増悪し、心筋梗塞が発症したものと認めるのが相当であり、本件発症は公務に起因するものというべきであるとして請求が認容された事例。
参照法条 地方公務員災害補償法31条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 2001年10月1日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (行ウ) 16 
裁判結果 認容(確定)
出典 労働判例823号39頁/第一法規A
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 「職員が公務上死亡した場合」(法31条)とは、職員が公務に基づく負傷又は傷病に起因して死亡した場合をいい、負傷又は傷病と公務との間に相当因果関係のあることが必要である。心筋梗塞等の虚血性心臓疾患は、加齢や日常生活における危険因子により基礎疾患が生じ、これが自然的経過の中で進行することによって発症し得る疾病である。したがって、虚血性心臓疾患が公務に起因するといえるためには、公務による過重負荷により基礎疾患が自然的経過を超えて悪化し虚血性心臓疾患を発症したものでなければならない。〔中略〕
 Aに基礎疾患である粥腫の形成(動脈硬化)があったことは否定できないけれども、その程度は明らかでない。Aのように心臓疾患の既往症がなく、定期健康診断においても格別の指導を受けたりしたことがない患者の場合、粥腫形成の程度や心筋梗塞発症の相関等について医学的な解明が十分になされているとはいえないのであるから、Aの粥腫形成の程度について、B見解のように日常生活の中でいつ心筋梗塞を発症しても不自然ではない状態にまで至っていたのか、それとも日常生活の中では心筋梗塞を容易に発症しない状態であったのかは不明といわざるを得ない。そして、公務起因性の要件は、原告側が立証すべき責任を負うものであるとしても、医学的に未解明である粥腫形成の程度や心筋梗塞発症の相関等についてまで原告側に立証責任を負わせることは相当ではない。そうでなければ、粥腫形成があるというだけで、いつ心筋梗塞を発症しても不自然ではないことが強調されて、公務災害を認める余地はない結果になって、不当であり、被告の脳心疾患についての公務上外の認定基準にも反するものである。公務起因性の有無は、医学的知見を前提にしての法的判断であるべきであるから、本件発症前の諸事情から窺えるAの身体状態と、公務の過重負荷の状況とを相関的に考慮して、公務によってAの基礎疾病である粥腫の形成・破綻が自然的経過を超えて増悪し本件発症に至ったのか否かを判断するのが相当である。〔中略〕
 Aは、前記のとおり、昭和63年4月以降、教頭として勤務時間内の職務のみならず、勤務時間外の諸教育活動に従事するとともに、職務不熱心なC校長をカバーするための余分な仕事まで余儀なくされるなどして、既に同年7月ころにはストレスを感じるようになり、その後もこれが高じていたところ、同年11月中旬以降は、寒冷の中、連日、勤務時間前に重筋労働といえるクロスカントリースキーの練習コースの設営作業をしたうえ、児童に対する練習の指導をし続け、平成元年1月21日以降は、これに加えて休日も含めて戸外で実施するスキー学習や冬季スポーツの指導に当たり、次第に疲労が蓄積するうち、学年末及び異動期の繁忙期を迎え、同年3月1日及び同月2日には自宅において徹夜又は徹夜に近い状態で学校関係文書作成作業をしたため、重度の疲労状態に陥り、疲労回復がなされないうち、同月4日、いつもどおり重筋労働であるクロスカントリースキーのコース設営作業に従事し、しかも、雨の中、重いカッターをスノーモービルにのせて左手で抑えながら、右手ハンドルで運転するという緊張を要する作業を強いられたものであり、本件発症の直前には、55歳のAにとって肉体的精神的にかなりの過重負荷の状態に至っていたものであるから、この公務の過重負荷に伴うストレス(ママ)より、交感神経系が著しく亢進し、カテコールアミンが分泌され、血圧上昇、血小板凝集能の亢進、血管攣縮が生じて、粥腫の破綻を招いた可能性が高く、基礎疾患である粥腫の形成・破綻が自然的経過を超えて増悪し、心筋梗塞が発症したものと認めるのが相当であり、本件発症は公務に起因するものというべきである。