全 情 報

ID番号 07898
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 コニカ(東京事業場日野)事件
争点
事案概要  カラーネガフィルム等の光学用品の製造販売を主な業務とする株式会社Yの従業員Xが、〔1〕あるプリンターの使用につきその経験や能力に照らすと操作することに特に支障がなかったにもかかわらず、異常品質のプリントを大量に発生させ、それを知りながら、上司の指示に従わず職場内の誰にも改善策を相談しないまま二日間にわたり作業を続けるなどして、新製品発売までの作業日程を大きく混乱させ、複数の部門の多数の従業員に迷惑をかけたこと、〔2〕Xが勤務していたYのセンター内の営業上の重要な機密情報を社外に持ち出そうとする態度をとり、上司から二回にわたり改善の注意を受けたにもかかわらずそれに従わなかったこと、〔3〕組合活動の一環として雑誌の取材に応じて自らの労働問題について発言し事実を歪曲したこと(Yが労働基準法に違反して残業代を支払っていないかのような印象を抱かせるもの)、〔4〕株主総会に出席し議事を混乱させたこと、〔5〕上司に対して粗暴な言動を行ったことが、いずれも就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして、懲戒解雇されたことから、Yに対し、本件懲戒解雇は、懲戒事由、相当性がなく、手続的にも違法であり無効であると主張して、労働契約上の地位確認及び賃金支払を請求したケースで、〔3〕の取材に応じたことを除くすべての事項について就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとしたうえでXの行為態様や事後の対応をみると、Yが懲戒解雇を選択したことは裁量を逸脱したものといえず、解雇権の濫用に当たるとはいえず、懲戒手続についてもXに弁明の機会が与えられ、所定の手続を経たうえでの懲戒解雇の決定がなされているとし、本件懲戒解雇は客観的にみて合理的な理由に基づくものであり、社会通念上相当として是認できるとしてXの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条9号
労働基準法24条1項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / チェックオフ
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 守秘義務違反
裁判年月日 2001年12月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 5485 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例834号75頁
審級関係 控訴審/07960/東京高/平14. 5. 9/平成14年(ネ)759号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-守秘義務違反〕
 原告は、被告のCSセンター内の営業上の重要な機密情報を社外に持ち出そうとする態度をとり、上司から2回にわたり、このような態度を改めるよう注意されたにもかかわらず、これに従わなかったから、原告の行為は、就業規則97条5、6号の懲戒解雇事由に当たる。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
 原告は、株主総会で質問時間のほとんどすべてを独占し、必要があるとはいえないのに執拗に同じ質問を繰り返したり、他の株主との間で口論したり、不規則発言を繰り返すなど、株主としての正当な権利行使とはいえない異常な言動を継続的に行い、議事を妨害した。そして、当時、原告が被告との間で労働条件や残業代の支払について被告との間で対立関係にあったこと、被告は原告の労働問題に関する団体交渉に応じていなかったことを考慮すると、原告は、株主としての立場ではなく、従業員としての個人的利益を図るためにこのような行動をとったと推認せざるを得ない。原告の行為は、被告の最高意思決定機関である株主総会の議事運営を妨害し、秩序を乱すものであるから、就業規則95条7号の懲戒解雇事由に当たる。〔中略〕
 A部長とB課長は、平成11年6月30日、事業場の会議室で原告と面談し、原告が前日の株主総会で議事を妨害し、議場を混乱させた件について問いただしたところ、原告は、株主総会における行動は、被告の従業員としてではなく、株主として行ったものであると何度も反論するとともに、大声で「仕事をさせろ。」、「お前は何を言いたいのだ。」「いったい何を言いに来たのか、おんどりゃあ、人のことを何だというのだ、やかましいや。」「お前の話を聞いてると、頭にくる。」などと怒鳴るとともに、何度も机やホワイトボードなどを力任せにたたくなどした。
 イ この認定事実によれば、上司の原告に対する指摘は、原告の正当な権利行使を妨害しようとしたものとはいえない。原告は、上司に対し、一方的に極めて粗暴な言動を行っており、このような行為は、自らの行為の正当性を上司に強く主張するために行われたものであることを考慮しても、正当な行為と評価することはできず、上司の指示に従わず、職場秩序を乱すものといえるから、就業規則97条5号の懲戒解雇事由に当たる。〔中略〕
 事後の対応をみても、原告は、上司らから再三にわたり注意を受けたが、これに反抗するばかりか、上司を威嚇するような粗暴な言動を行い、真摯な反省を示さなかった。
 そして、原告の処分を軽減すべき有利な情状は見当たらない。被告の就業規則には、懲戒処分として、けん責、減給、出勤停止が規定されているが、原告の行為態様や事後の対応を見ると、原告に今後の改善を期待することは困難といわざるを得ない。原告は過去に被告から懲戒処分を受けた前歴がないことを考慮しても、懲戒解雇を選択したことは、裁量を逸脱したものとはいえず、本件懲戒解雇が解雇権の濫用に当たるとは認められない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 被告は、原告に弁明の機会を与え、所定の手続を経て懲戒解雇を決定したから、その手続に瑕疵があるとは認められない。
 原告は、聴聞の機会が与えられなかったから瑕疵があると主張するが、手続上、原告に聴聞の機会を与えることは義務づけられていないから(〈証拠略〉)、原告の主張は採用することができない。
 原告は、十分な弁明の機会が与えられなかったと主張するが、原告が事実関係の認否をするために最低限必要な期間がなかったとはいえないから、原告の主張は採用することができない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
 以上によれば、本件の懲戒解雇は、客観的にみて合理的な理由に基づくものであり、社会通念上も相当であり、解雇権を濫用したものとはいえない。したがって、原告の被告に対する労働契約上の地位確認及び懲戒解雇後の給与と賞与の支払請求は、いずれも理由がない。〔中略〕
〔賃金-賃金の支払い原則-チェックオフ〕
 〔中略〕使用者と労働組合との間にチェック・オフ協定が締結されている場合であっても、使用者が有効なチェック・オフを行うためには、協定の外に、使用者が個々の組合員から、賃金から控除した組合費相当分を労働組合に支払うことにつき委任を受けることが必要であって、この委任が存在しないときには、使用者は当該組合員の賃金からチェック・オフすることはできず、またチェック・オフ開始後においても、組合員は使用者に対し、いつでもチェック・オフの中止を申し入れることができ、中止の申入れがされたときには、使用者は当該組合員に対するチェック・オフを中止すべきと解される(最判平成5年3月25日・労働判例650号6頁)。