全 情 報

ID番号 07919
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 大阪証券取引所(仲立証券)事件
争点
事案概要  大阪証券取引所(Y)が開設する有価証券市場において媒介業務を行っていたA証券株式会社の従業員であった(また大阪証券労働組合の組合員でもある)Xら四〇名が、A社にはYから独立した企業としての実体がなく、法人格否認の法理が適用され、平成一一年五月の解散及びそれに伴うXらの解雇は、Yによる不当労働行為に該当し、無効である等と主張して、Yに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金の支払を請求したケースで、Aは、沿革的には、Yとは全く資本関係もなく、証券取引法によって、Yとは全く別の組織として成立し、運営されてきた法人であって、その後、Yが資本参加するに至った後も、その設立目的に従い、独自の資産、従業員も有して、自己の計算で営業活動をしてきたもので、法人の実体としてはYとは独立していた存在であるということができるとし、Aはその法人格が形骸化し、Yの一営業部門としての実体を有するにすぎないとはいえず、Aの法人格を否認してYと一体のものとみなすことはできないとし、またYが大阪証券労働組合を嫌悪し、その弱体化のために、Aを解散させるべく仲立手数料率の引下げ等を実施していったとのXらの主張も採用することはできず、Aの解散自体が不当労働行為目的でなされたもので無効であるとのXらの主張は採用できないとして、Xらの請求が棄却(将来分の賃金を求める部分は却下)された事例。
参照法条 労働基準法89条3号
労働組合法7条
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更
労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 法人格否認の法理と親子会社
裁判年月日 2002年2月27日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 6801 
裁判結果 一部却下、一部棄却(控訴)
出典 労働判例826号44頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕
 (1) A証券は、沿革的には、被告とは全く資本関係もなく、証券取引法によって、被告とは全く別の組織として成立し、運営されてきた法人であって、昭和60年に、被告が資本参加をするに至った後も、その設立目的に従い、独自の資産、従業員を有して、自己の計算で営業活動をしてきたもので、法人の実体としては、被告とは独立した存在であるということができる。
 原告らは、A証券の行っていた媒介業務は、被告が本来行うべき仲立業務を肩代わりさせているにすぎないというのであるが、企業がその行うべき業務を他の法人に委任することは数多く存在することであって、そのことによって受任企業の法人格が否定されることにはならない。また、仲立業務が、公正なものでなければならないことはいうまでもないとしても、だからといって、これが被告の本来の業務とまではいうことができない。
 また、被告が、その定款、業務規程、同施行規則及び運用の手引き等によって仲立業務の遂行方法を細かく規定し、A証券の従業員はこれに従うものとされているが、証券市場を開設する証券取引所が公正かつ円滑な取引を行うために業務遂行方法を一定程度規制することは必要なことであり、これをもって媒介業務を遂行する会社を支配するためのものとはいえず、これをA証券の法人格が形骸化している根拠とすることはできない。〔中略〕
 仲立手数料については、これを被告において、一定の手続によって決定し、その過程にA証券が関与する機会はないが、手数料収入がA証券の主たる収入源であるから、その決定はA証券の経営状況を大きく左右するものであるということはできる。
 これらの事実は、被告がA証券に影響力ないし支配力を及ぼす立場にあったことを示すが、未だ、形骸化し、A証券が被告と組織的にも一体化しているとまでは認められない。上記認定のように、平成7、8年ころにかけては、経営再建のために媒介業務以外の業種への転換も図ろうとしたり、B元社長においては、被告の意向とは明らかに異なる独自の主張をしており、これらは、A証券が、被告と独立した法人格を有していたことを裏付ける。
 (3) 以上によれば、A証券は、その法人格が形骸化し、被告の一営業部門としての実体を有するにすぎないとはいえず、A証券の法人格を否認して被告と一体のものとみなすことはできない。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更〕
 原告らは、被告が平成9年になってA証券解体の方針を決定したのは、C証券の労使紛争が同時進行しており、北浜全体にビッグバンによる労働者への犠牲の転嫁を批判する動きが活発化するなか、ビッグバンに反対する労働運動の拡大、拡散を防止しようとするためであると主張する。確かに、D労組がC証券の労使紛争において活発な闘争を展開したことは認められ、従前のいきさつもあって、被告やその代表者がD労組に好感をもっていなかったことは明らかであるが、かといって、それがA証券を解散してまで、A分会を壊滅させなければならないような動機や事情であるということはできないし、D労組の存在がビッグバンを阻止するほどのものであったとはいえず、他に、被告の運営にとってA分会を壊滅させなければならない差し迫った事情も窺われない。また、被告がD労組における最大規模の分会である取引所分会に所属する組合員に対して、何らかの不当労働行為を行っていたとの事実は窺われないのに、A分会のみを壊滅させようとしたというのは不自然でもある。これらによれば、上記原告らの主張は採用できない。A証券の解散は、専ら市場及び取引方法の変化に基づくその存在意義の消滅によるというべきである。
 以上によれば、被告が、D労組を嫌悪し、その弱体化のために、A証券を解散させるべく仲立手数料率の切下げ等を実施していったとの原告らの主張は採用できず、A証券の解散自体が不当労働行為目的でされたもので無効であるとの原告らの主張には理由がない。