全 情 報

ID番号 07926
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 菱宣破産管財人事件
争点
事案概要  広告代理店業等を業とし、破産宣告を受けたA社から解雇された元従業員Xら六名が、破産手続において退職金を破産債権として届け出たのに対し、A社の破産管財人Yが異議を述べたので、Yに対し、破産債権の確定を求めたケースで、本件退職年金規定は、A社の就業規則としての性質を有し、仮にA社の経営悪化が退職年金規定の「経済情勢等の変動」という廃止事由に当たるとしても、退職金は従業員にとって重要な権利であるから、これに関して実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、そのような不利益を従業員に法的に受忍させることができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものでなければならないとしたうえで、A社は営業を廃止し全従業員を解雇しており、今後経営を維持・存続することを全く予定していなかったから、もはや人件費を抑制するための方策をとる必要はなく、退職年金規定を廃止すべき高度の経営上の必要性があったとはいえないとして、本件退職年金規定の廃止は高度の必要性に基づいた合理的な内容のものとはいえないとして、Xらの請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法89条3号の2
労働基準法93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 退職金
裁判年月日 2002年3月5日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 3737 
裁判結果 認容(確定)
出典 労経速報1801号16頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-退職金〕
 本件退職年金規定は、破産会社の就業規則としての性質を有する。仮に、破産会社の経営悪化が本件退職年金規定二九条の「経済情勢等の変動」の廃止事由に当たるとしても、退職金は、従業員にとって重要な権利であるから、これに関して実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、そのような不利益を従業員に法的に受忍させることができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものでなければならない(最高裁判所第一小法廷平成一二年九月七日判決・民集五四巻七号二〇七五頁参照)。
 破産会社の従業員である原告らは、本件退職年金規定の廃止により著しい不利益を破るのに対し、破産会社は、従業員に対し不利益を緩和するための措置を一切講じておらず、本件退職年金規定を廃止するための従業員に対する説明や従業員からの意見聴取も行っていない。破産会社は、平成一二年五月二六日に営業を廃止し、全従業員を解雇しており、今後経営を維持・存続することを全く予定していなかったから、もはや人件費を抑制するための方策をとる必要はなく、本件退職年金規定を廃止すべき高度の経営上の必要性があったとはいえない。
 そうすると、本件退職年金規定の廃止は、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものとはいえないから、その他の点について判断するまでもなく、原告らにその効力を及ぼすことができないというべきである。